オーストリアSV

ウィーン、外向きのイメージと実際 (2)
―観光都市で生活するとは―

小野絢子
人間文化課程 1年

観光都市と現地での生活

次に表向きのウィーンの姿である「観光都市」という側面(観光産業は2008年、オーストリアGDPの7.7%を占めている)と現地の人の生活の折り合いについてお話しする。なおウィーン市には中心にリンクという一周約4kmの環状通りがあり、主な観光スポットはリンクの内側や周辺に集まっている。
観光都市という側面と現地の人の生活の折り合いについては、「ハレとケ」というキーワードが重要だと考える。「ハレとケ」とは民俗学や文化人類学における用語で「ハレ」は年中行事や祭りなどの「非日常」を、「ケ」はふだんの生活である「日常」を表している。

「ハレとケ」のウィーン

これら2つの住み分けがあることを予想してはいたが、ウィーンの街では予想以上に明確に分かれていた。非日常である「ハレ」の場の例としてはリンクの周辺やリンクの内部にある国立オペラ座、シュテファン寺院、ハプスブルクにまつわる場所などがあげられる。これらの場所の近くにはたくさんの土産屋があったり、馬車が走っていたり、ブランド店の並ぶ通りがあったり、有名なホテルが近くにあったりと観光客も多く華やかである。

シュテファン寺院近くの通り「グラーベン」 - オーストリアSV2014

シュテファン寺院近くの通り「グラーベン」 ウィーン旧市街中心部で歩行者
天国になっているメインストリート。両側にはカフェやブティックが並ぶ。

対して私が訪れた中で思った「ケ」の場の例としては、リンクのはるか外側に位置するカール・マルクス・ホーフという市営住宅やユダヤ人街、トルコ人街などの移民街、ドナウ川沿いに建つビル群などがあげられる。街歩きをしている時まるで巨大なテーマパークに迷い込んだような奇妙な感覚をもった。
とりわけその感覚を強く感じたのは、一応リンク内ではあるが、観光施設が立ち並ぶ界隈とは反対側に位置するドナウ運河の近くを歩いた時だ。そこには高層ビルが見える。それは日本で見るものと変わらないビル。それを見つつ、よくガイドブックで見るような歴史的建造物を見るとそれらの歴史的建造物は、ウィーンの人々の努力により残されたものなのだと実感する。

ドナウ川沿いのビル群 - オーストリアSV2014

ドナウ川沿いのビル群

またユダヤ人街やトルコ人街などの移民街は中心部近くにあることに驚いた。ユダヤ人街については徒歩で行ける距離、トルコ人街もバスに少し乗ればすぐ着く場所にある。またそれらの場所を歩くと、街中で使われている言語がドイツ語ではないことがわかる。オーストリアにいながらにしてまた違う国を感じられる。
SVの中で、ウィーン大学の日本語学科の学生たちと交流する機会があった。ウィーン大学の学生に「ウィーンって観光地っていうイメージがあるけど、住んでいる人にとってはどうなのか。」と聞いたところ「別に僕にとっては観光地というイメージはない。ただ住んでいるだけ。」と言われた。
ウィーンには「ハレ」の場所、「ケ」の場所があり住民は「ケ」に住んでいるからそう感じるのではないだろうか。つまりそれだけ徹底して空間を切り離している。ウィーンという面積としては広くない都市に「ハレ」と「ケ」の場所が混在している。「ハレ」と「ケ」がわかれているからこそ、ガイドブックにのるような、そして私たちがイメージするような表向きのウィーンをつくりやすいのだ。

おわりに

ウィーンにはオーストリアの歴史にかかわる様々なものが存在していた。ハプスブルク時代にまつわるもの、第2次世界大戦時のような比較的新しい時代のもの、また町全体に中世からの歴史的建造物が存在する。ウィーンはそれら縦の広がりと、先ほど述べたような横の広がりがある都市なのだ。ガイドブックでは観光名所やホテル、土産店などが大量にかつ個別に載っているため町全体のイメージをつくりにくい。それゆえ我々は個別に切り取られたパーツからその街の一面的な表向きのイメージを作ってしまうのではないかと思った。「中」からも見ることでウィーンの魅力に気づかされると共に、観光の面白さを知った。