未だ日本では、「外国人」と言えば、出稼ぎや移民と言った人々ではなく、観光客としての認識が強い。しかし、遠くない未来、日本でも様々なバックグランドを抱えた人々が共生していかなければならない状況に直面するだろう。グローバル化が進めば、様々な国籍を持った人々が集まるに違いない。トロントはそういったグローバル化を体現する先駆的な街の一つだ。
街は比較的安全で、道にもゴミは少なく、様々な肌の色の人々が行きかう。トロントの中心駅であるユニオン(Union)駅の周りには商業施設が立ち並び、金融街には多数の金融会社ビルが連なる。特にRBC社の金箔で覆われた超高層ビルはトロントの繁栄を表すシンボルだ
多民族、多文化が共存、繁栄する理想的な都市トロント。しかし居住区を見てみると一筋縄ではいかない多文化共生の側面が見えてくる。私が注目したのはヨークビル(Yorkville)とセイント・ジェームス(St. James)の2地域である。
多民族、多文化が共存、繁栄する理想的な都市トロント。しかし居住区を見てみると一筋縄ではいかない多文化共生の側面が見えてくる。私が注目したのはYorkville とSt. James Mural の2地域である。
大型デパートや高級ブランド店が立ち並ぶ大通り、ブロアストリート(Bloor St)から数本入ったところにヨークビル地区は存在する。
閑静で交通量の多いブロアストリートがすぐ近くにあることを感じさせない、都心の理想的な居住地区だ。この地区の建築物は、ビクトリア調の古い住宅を改装し、店舗として利用することで古い街並みを壊さない努力がされている。狭い道にレンガ造りのかわいらしい建物が並び、独特の雰囲気を作り出す。店舗にはブティックやアートギャラリーが入る。
ヨークビルには高級マンション、高級ホテルがあり、少し離れた所にはガラス張りの高層マンションが立ち並ぶ。スーパーに入ってみたのだが、やはりこの地区に住む富裕層向けに高級食材や珍しい輸入品が多い。近くの高層マンションは建設中のものも多く、新興の高級住宅地として開発途中で、トロント経済の勢いを見ることのできるエリアであった。
一方、トロント郊外、ブロアストリートから路面バスを使って30分ほど行ったセイント・ジェームスには、典型的な低所得者用のアパートが立ち並ぶ団地が存在する。私たちが訪れたのは地域再興プロジェクトとして壁一面に不死鳥の絵が描かれたある一棟で、プロジェクトリーダーとして携わったMojan Jianfar氏に説明をうけながら見学を行った。
Jianfar氏の所属するSTEPS(URL:http://www.stepsinitiative.com/)という非営利団体では、コミュニティの活性化を目的として様々な取り組みを行ってきた。セイント・ジェームス壁画プロジェクトもその一例である。この地域は治安が悪い印象があり、近隣住民の寄りつかない場所となっていた。「このプロジェクト後、人通りも増え、イメージ改善に一定の成果を得たと言えるが、反対も多く、皆が賛成したプロジェクトであったとは言えなかった」とJianfar氏は語る。かつてこの地域では実際に大きな事件が起きたことはない。「悪評はここに住む低所得者に対する、近隣住民の先入観が作りだしたのではないか」とJianfar氏が言うように、低所得者、移民に対して偏見がつきまとうのは事実であり、こうしたコミュニティー問題は多文化共生の問題点を浮き彫りにするものとなっている。持続可能なコミュニティを形成していくのは想像以上に難しいものであると同時にこういったプロジェクトの必要性を感じた。
ヨークビルとセイント・ジェームスとを比較してみて、商業地区からは見て取れなかった階層化、そして多文化共生の抱える問題点が見えてきた。人々の流入とともに人々の階層化も進む。同じ階層の者は固まって住み、地区が形成される。富める地区と貧しい地区のトラブル、貧しい地区への根拠のない悪評。多民族、多文化を受け入れる都市を作ると共に、同様の居住地区を作る重要性とその難しさが感じられる。こうしたトロントの事例を見ていくことで、将来日本の都市、居住区で必要とされる多文化共生の取り組みを学ぶことができるのではないだろうか。