カナダSV

Art Spots of Toronto!

小林璃子
人間文化課程3年

オンタリオ州の州都でありカナダ最大の街でもあるトロント。トロントは金融経済、電気通信、芸術、観光、航空宇宙、スポーツなど様々な分野の産業基盤が発達している一方で、世界屈指の多民族都市という一面も持っている。
様々な文化を持つコミュニティが共存し、多種多様な分野の中心地であるこの街。特に芸術に着目して「多文化主義の街」トロントを紹介する。

カナダSV2014:

トロント市内には多くの美術館、博物館があり、今回のツアーで私が行くことができたのは5つ。全てトロント市内を走る地下鉄やストリートカーを使っていくことができ、交通アクセスも非常に良い。
トロントに行ったら必ず押さえておきたいのがオンタリオ美術館(http://www.ago.net)。市民からは「AGO (Art Gallery of Ontario)」の愛称で親しまれている。
ピカソやゴッホ、モネなどのヨーロッパ絵画はもちろん、カナダ美術や現代アートなどのコレクションも充実しており、一日中楽しむことができる美術館である。
ここで注目したいのは、2階にある “Thomson Collection of Canadian Art”と “J.S. McLean Centre for Canadian Art”という、カナダ先住民の文化や絵画を紹介するコーナーが大きくスペースを取っている点である。
カナダのミュージアム界は21世紀までの長い間、「アート(美術)/アーティファクト(民具・工芸品)」という二分法によって支配されていた。ヨーロッパのファインアートのみが「真の美術品」として美術館に展示され、先住民の伝統工芸品は博物館に収容されるということが行われており、どんなに優れた技術による装飾や美的センスが見られても「未開人」の作品として美術館に置かれることはなかったそうだ。また先住民社会は消えゆくものとして理解されていた。「消えゆく先住民社会は消える前に記録されなければならない」として非先住民画家によって懐古調に描かれた先住民社会の絵画は積極的にカナダの国立美術館に展示され、「ヨーロッパ中心主義」というカナダ人アイデンティティの確立のための市民教育に利用された。先住民は当時でも「現代に生きる民族」であったのにも関わらず、先住民は「過去に生きる民族」という偏見が強化されていったのである。オンタリオ美術館も例にもれず、1900年の開館以降の長い間収集の対象はヨーロッパ芸術と北米のヨーロッパ系芸術家の作品であった。
しかし1980年代頃から、先住民の美的センスの高さを重視すべきであるという主張が広がりはじめ、少しずつ先住民による芸術作品の展示数が増えていった。オンタリオ美術館における先住民文化のスペースは、先住民を軽視していたカナダのヨーロッパ中心主義がその重要性を認識したことで設けられたのである。

カナダSV2014:

もう一つ、トロント市内を歩いていて気になったのが、いわゆるストリートアートという誰の目にも触れられる芸術様式が多く存在している点である。
驚いたのが、さきほど紹介したAGOの入り口付近にあるこちらのアート。
“NO WALLS BETWEEN US(僕たちの間に壁はない)”と書かれた文字の上には親しげに顔を近づけ合う二人の男性が描かれている。日本では法律上認められていない同性婚はトロントでは認められている。その事実も少なからず影響してか、人通りの多い街中で堂々とこのような絵画が飾られている。
上記のようなアートは別の場所でも見ることができた。519 Church Street Community CentreというLGBTQ(セクシャルマイノリティの人々を総称した言葉)の活動を支援する建物の壁に描かれている絵画だ。

カナダSV2014:

「多文化主義」という言葉は一見すべての立場の人が対等な立場で扱われているような印象を受ける。しかし実際はそんなことはなく、マイノリティの人々に対する差別は続いている。その現実を知ってもらう、そして改善するための一つの方法としてアートがあり、それらが全ての人に見られるようになっていることの重要性を感じることができる。

今回はテーマを芸術に絞ってトロントを紹介したが、トロントの持つ性格を投影した表現形態をしていることが分かるだろう。ぜひトロントのアートスポットを巡る旅をしてみてはいかがだろうか?

参考リンク
参考文献
  • 中村尚弘(2013) 「カナダ・オンタリオ美術館における先住民作品展示の取り組みとその北海道美術史への知見」, 『北海道民族学』9, p.46-56, 北海道民族学会