中国SV

交流の持つ意味〜偏見を乗り越えるために〜

松本春美
人間文化課程 2年

滞在7日目。我々は交流協定が結ばれている中山大学を訪れ、日本語を学んでいる学生さん達と交流した。中国の伝統文化や料理を日本語で紹介してくれたり、両国にまつわるクイズを交えたすごろくを用意してくれていたりと、とても快く歓迎してくれた。印象的だったのは、彼らは日本語が上手なだけではなく、日本の文化や流行についても幅広い知識を持っていた事だ。『源氏物語』の歴史から『NARUTO』の登場人物まで、皆本当に詳しい。どうしてそんなに知識が豊富なのかと聞くと、「日本のドラマやアニメが好きで、よくクラス皆で見ているんだ」との答えが返って来た。

中山大学の外国語学院の中には日本交流の部屋も存在し、そこには日本の雑誌や絵本、観光パンフレットがずらりと並んでいた。日頃から日本の文化に馴染み、そのうえで日本語を勉強している彼らの姿勢は言語を学ぶ者にとって理想的だ。また、日本を知ろうとしてくれている事が単純に嬉しくもあった。中山大学といえば孫文が設立した事で有名な、広州の難関総合大学。彼らの中には日本への留学を真剣に考えて勉強している者も多い。まだ2年目とは思えない流暢な日本語に感化され、私ももっと中国語を話せるようにならなくてはとの焦燥に駆られた。また、彼らが日本に興味を持ってくれている事を嬉しく感じたように、私も中国の事を幅広く理解する努力をし、同じように喜んで貰えるようになりたい。

左:中山大学の学生が中国各地の料理について、日本語でプレゼンテーションを行っている様子
右:日本交流部屋に並ぶ雑誌や絵本。『文藝春秋』『AERA』『おやゆびひめ』など

一方で、反日感情を露わにする人にも遭遇した。中山大学での交流の翌日、我々が広州のモスクに入ろうとする際に、「日本人は嫌いだ、帰れ!」と大声で叫ばれたのである。滞在中初めて、日本に嫌悪感を抱いている人も当然居るという事を思い出した瞬間だった。言うまでもなく、現在の日中関係は決して良好だとは言えない。国交正常化から40年以上の月日が経つが、尖閣諸島をめぐる問題や安全保障問題、南京大虐殺などの歴史認識の違いなど、政治的問題は依然として山積みである。今年は終戦から70年という節目の年である故、特に歴史問題については国民感情も敏感だ。戦争を知らない若い世代の中にも、祖父や祖母から話を聞き日本人嫌いになる人が少なからず居る。

もし中山大学での交流が無かったら、私は叫ばれた時に「やっぱり中国人には日本が嫌いな人が多いんだ」と思ってしまっていただろう。誰だって、自分自身に起きた経験から偏見を生み出してしまうものだ。したがって中国に訪れた事が無い多くの人は、テレビから流れてくる反日デモの様子や著作権侵害などの情報だけを鵜呑みにして中国人像をイメージしてしまう。私は実際に現地に訪れてみて、「日本が好きだ」と言ってくれる人々と沢山出会う事が出来た故、嫌いだと叫ばれた瞬間も冷静に状況を見つめる事が出来たのだと思っている。交流を重ねる事の大切さを、この滞在で改めて実感した。

中山大学の学生さんと、もう一人街で知り合った学生さんが、今年の4月から日本に留学する。これから先長く関係を続け、いつか日中関係についても正直に語り合える仲になりたい。