イギリスSV

キングスクロス駅周辺散策

星裕樹
人間文化課程 4年

宮原大
人間文化課程 3年

ロンドンSV 8日目である2月20日は、London School of Economics(通称LSE)のメイス先生の元、キングスクロス駅周辺の都市散策を行った。キングスクロスは、かれこれ30年近く開発を検討している地区であり、私たちが訪れた時も高層ビルの建設がいくつもの場所で行われていた。地域住民が「仕事の場」と「住宅」を要望し、現在オフィスビルとマンションの建設を進めているということだった。

イギリスSV2014:工事の風景が多く見られる

工事の風景が多く見られる

さて、「キングスクロス」と聞いて、何か聞き覚えがある方も多いのではないだろうか。そう、キングスクロス駅は映画『ハリー・ポッターと賢者の石』でも特に有名なシーン、ハリーがカートを押しながら9番線と10番線の間にある柱(9と3/4番線)へと突っ込んでいく、その場面の駅がキングスクロス駅なのである。私たちがキングスクロス駅に着き、改札を出ると何十人もの人だかりができていた場所があった。そこを覗くと、「9と3/4番線」と書かれ、カートが壁に半分埋まっている状態で人々が思い思いに写真撮影を行っていたのだ。今や観光スポットとして人気を博し、有名になっているようだ。

イギリスSV2014:キングスクロス駅の「9と3/4番線」

キングスクロス駅の「9と3/4番線」

それでは、話を元に戻そう。今回案内をしてくださったメイス先生は、5日目に開かれたLSEでのレクチャーで講師をしてくださった方でもある。まず、私たちはBritish Library(大英図書館)前に集合した。5000万もの蔵書がある図書館であり、とても巨大な施設であったと同時にロンドンの風景に馴染む歴史を感じさせる建物だったのが印象的であった。British Libraryの周辺は、以前はイングランドから石炭を運ぶ鉄道の駅で、貧しい人々が駅前で落ちた石炭を拾う光景があったという。そして、British Libraryも含めて当時のキングスクロス駅周辺は場末の街で、当時のイギリスでは貧困層が住むと言われていた公共住宅があったり、感染病の病棟が多くあったりしたそうだ。

British Libraryから歩き始めた私たちは、最初にキングスクロス駅とセント・パンクラス駅を見て回った。2つの駅は近接しており、共通点と相違点がそれぞれあったので紹介する。共通点としては、駅入口の前にポールが半円状にたくさん並んでいたことが挙げられる。これは、爆薬を積んで車で突っ込むいわばテロ対策の一環として、太くてかたい支柱でエントランスをガードしているということだった。また、どちらの駅も始発(終点)駅であるというのも共通している。ロンドンは、少数の富裕層が地主として多くの土地を持っている場合が多く、私有地を譲らなかったためにキングスクロス駅もセント・パンクラス駅も延伸できなかったというのだ。相違点としては、駅の高さを挙げることが挙げられる。キングスクロス駅の方が低くセント・パンクラス駅の方が高いのには、駅の設立年が関連している。先にできたキングスクロス駅は、地下に鉄道を敷こうとして多額の建設費用が掛かった。その教訓を生かし、セント・パンクラス駅は地上に鉄道を敷くことで経費削減に努めたというのだ。メイス先生の説明がなかったら何気なく見ていた街並みも、こうして知識を入れることでそれぞれに意味や歴史があって現在の街並みが形成されているということがわかった。

イギリスSV2014:セント・パンクラス駅

セント・パンクラス駅

駅を後にした私たちは、運河の方へと歩き進めた。キングスクロス駅の北側にある運河はリージェンツ運河と言い、当時は輸送手段として活躍していたものだった。現在、この運河の下には鉄道が走っているというから驚きだ。その地下鉄の台頭によって、輸送手段としての役目を終えたリージェンツ運河は、現在は観光スポットとして存在しているということだった。そして、この運河の北側と南側で街の様子が異なっていることに気付いた。北側は住宅がひしめき、南側はビルが多くあったのだ。メイス先生の話によると、北側よりも南側の方が地価が高く、だから南側にオフィスビルや大学があり、北側は住宅街になっているそうだ。

そして、私たちはキングスクロス駅から少し離れて住宅街の方へと向かった。この街の住宅街には、道路を挟んで貧困地域と富裕地域に分かれているという大きな特徴があった。実際に歩いてみると、視覚的には住宅の違いが一目瞭然であったが、それとなく感じる地域の雰囲気も異なっていたのが印象的であった。この感覚は、私たちがゼミ活動で調査している横浜市中区寿町のそれと類似しており、言葉では表すことのできない空気の変化がそこにもあったのだ。メイス先生によると、近年ではこの地域でソーシャルミックスという試みがあるとのことだった。ソーシャルミックスとは、年齢や職業、所得水準などが異なる人々が同じ地域で交流して暮らすことを指しており、貧困地域と富裕地域が境界なく混じり合うことを目指している。しかし、これを実現するのは難しいのが現状であるという。貧困地域と富裕地域を直線でつなぐ道路が封鎖されているのを、私たちは目の当たりにした。この封鎖は区役所の決定ということで、ソーシャルミックスまでの長い道のりを感じさせた。さらに、先述の通りキングスクロス駅周辺は再開発に沸いており、その影響で地価が高騰しているというのだ。貧困層は地価の高さに耐えられなくなり、現在の居住地域に居られなくなる日が来るのではないか、とメイス先生は仰っていた。

午前中の約3時間という短い時間ではあったが、キングスクロス駅を中心に街並みに関して様々な視点から見ることができた。日本での都市散策の経験があったことで、日本との比較が出来たり着目するポイントが絞れたりしたのは良かった点として挙げられる。その街のことを知るのには、文献で街の歴史を調べるよりも、長く住む人に話を聞くよりも、自分の足で歩いて自分の目で街を見るのが一番の近道であることを再確認できた。日本とロンドンの抱える都市問題がかけ離れているとは思わない。日本とロンドンという2つの街を知る私たちだからこそ出来ることを模索していきたいと思う。

イギリスSV2014:キングスクロス駅構内

キングスクロス駅構内