フランスでのグローバルスタディーズツアーは4度目である。うち、3回はコルシカ島という地中海の島で、受け入れ校コルシカ大学その他の協力により行っている。
なぜ、コルシカ島でグローバルスタディーズを実施するのか?もちろん担当教員がこの島をフィールドワークとしているからという理由もあるが、フランスツアーのコンセプトである「オールタナティヴ・ツーリズム」を学ぶのに、パリやフランス本土とは異なる歴史や文化を持つこの島で短期間でも滞在することが有意義だからである。
インバウンド(訪問外国人観光客数)でみるならば、フランスは世界最大の観光大国である。全人口6,500万人を遥かに超える8,600万人(2013年)もの外国人が観光のためにフランスを訪れる。この数値は2014年の訪日外国人観光客数が1,300万人から見ても驚異的な数値であることが分かる。
フランスが世界一の観光大国となったのはもちろん自然の成り行きではなく、国策をはじめとした様々な仕掛けがあることに他ならないのだが、これは単に「観光政策」の賜物ではない。また、パリやコートダジュールやモンサンミシェルなど、日本からのツアー旅行でもコースに組まれ、既に世界的にも知られた観光地を訪れても、ツーリズムの「オールタナティヴ」性を見いだすことは難しい。こうした経緯から、観光地としては余りみなされないコルシカ島の人々の生き方を垣間見ることの方が、オールタナティヴ・ツーリズムの在り方を発見できるのではないかと考えるのである。
2014年度は9月12日から22日までの11日間をツアーに充てた。スケジュールは以下の通りである。
コルシカ大学を受け入れ校としつつも、本ツアーは上の理念から、机上で学ぶことよりも、島内の幾つかの場所に足を踏み入れ、様々な活動をしている人たちと話をすることを重要視している。コルシカ大学法律経済学部にも観光学科があり、セルジュ・ピエリ学科長をはじめ院生・学生の皆さんに温かく受け入れてもらったが、そこで行われている講義やプログラムは、日本の大学で行われている「観光学」とは全く異なるものであり、どちらかといえば旅行関連業への就職に必要な情報科学上のスキルを学ぶものであった。それでもコルシカ大学の学生・院生とはツアー参加者の宿泊施設、カーザ・ジャッフェリで「コルシカの食材を使った和食パーティ」を開いたり、大学の町コルテの観光案内をしてくれたり、交流を大いに楽しんだ。最初と最後に滞在したアジャクシオの町でも、日本コルシカ協会の若い現地のメンバーの人たちが中心にいろいろイベントを開いて、我々一行を受け入れてくれた。
今回は、2013年に引き続き、コルシカの食文化とそれを支える農牧業を中心に、参加学生がそれぞれのテーマで報告を行っている。コルシカは島嶼性という地理的特徴から、人間の歴史や文化のみならず、生態系までもが独自であり、これは様々な農作物にも独自の品種があることを意味する。共通するのは、1970年代〜90年代ごろまではいずれも島の独自品種よりも収益性の観点から、フランス本土やヨーロッパで主流となっている品種にとりかえられたものの、結局、思ったほどの収益はあげられず、今では島の独自品種への回帰している点である。この動きはコルシカにおける歴史文化の独自性への回帰の時期と符合する。コルシカ史や音楽、言語に見られるコルシカ文化の高揚は「コルシカ民族主義」によって引き起こされたものであるが、この農産物の独自性追及もまた、民族主義の流れからではないだろうか?一方で、AOCやIGPなどフランスやEUの原産地呼称統制制度が、コルシカの食文化や農業の独自性を支援する方向になっている。これは、フランスや欧州の農政が食文化と農村の多様性保護の観点にシフトしたことによる。
このような動きがオールタナティヴ・ツーリズムにどう関わるのか、現時点でそれを明確な言葉で表すことは困難だが、ツアー参加者一人一人が心の中に留めて、帰国後の学びを通じて答えを見いだしてもらえればと思う次第である。