フランスSV

コルシカの文化 モーラについて

森岡加理武
人間文化課程 2年

モーラ(Morra、フランス語ではムールMoure)はローマ時代から今日に至るまで行われている拳遊びであり、現在ではイタリアや南フランスを中心に主に中高年層が興じている。また、地域によって独自のルールが組み込まれていることが多く、コルシカのモーラも異なったルールで行われている。

一般的なモーラは、基本的にそのゲームに参加しているプレイヤーの出した指の合計本数が偶数であるか奇数であるかを言い当てるものである。これに対してコルシカのモーラはゲームに参加したプレイヤーの出した指の合計本数を言い当てるものである。コルシカのモーラをプレイする場合にはまず、それぞれのプレイヤーが片手を出す際にそれぞれの数字をコルシカ語で叫ぶ。数字を叫ぶ際に大声を出して相手をにらみつけるため、まるで相手を威嚇するような光景になる。そして、出した指の合計本数と叫んだ数字が同じである場合はその数字を叫んだものが勝ちとなる。ただし、同じ数字を叫んだものがいた場合は引き分けとなる。

指の合計本数を言い当てた者がいない場合は、島内の地域によりさまざまなバリエーションがあり、「引き分けとしてやり直す」「近似値を叫んだものが勝ち」「近似値でかつ指の合計本数よりも大きい(小さい)数字を叫んだものが勝ち」などがある。毎年8月にコルシカ島の南隣のサルデーニャ島でモーラの国際大会が開催されており、大会に向けて近年コルシカではモーラの若手選手育成団体も結成されている。

モーラは数拳(かずけん)の一つと考えられている。数拳は2人が互いに片手の指で数字を出すと同時に出した指の合計本数を言い、当たった方が勝ちという中国発祥の拳遊びである。日本では16世紀ごろに長崎から入ってきた遊びで長崎拳(または崎陽拳)とよばれ、江戸時代後期まではこれが大人の拳遊びの中心だった。一方日本には古来より、地域で異なるがどの指を出すかによって勝負を決める拳遊びがあった。ナメクジ拳が最も知られ、親指(蛙)<人差し指(蛇)<小指(ナメクジ)というものである(ただし小指<親指のため、絶対的勝者はいない)。いわゆる「三すくみ拳」が様々なバリエーションで日本各地に存在していた。

ジャンケンはこの数拳と三すくみ拳が統合することで明治初期に誕生した拳遊びである。その後のジャンケンが全国的に流行したことで数拳など他の拳遊びを淘汰してしまった。この数拳がペルシアを経てイタリアへと渡りモーラの原型になったという説もあるが、はっきりとした証拠は見つかっていない。

集会や飲み会の場などでしばしば行われるモーラであるが、実際にスタディツアーで見せてもらった所、体全体を動かす素振りや相手を威嚇するような声の出し方などから、拳遊びというよりはむしろスポーツのような印象を受けた。勝ち負けに関わらず場を盛り上げる遊びであり、かつコルシカ語を知らない人でも数字を習得すればプレイできるので、現地の人たちと打ち解けあうのにはとても良いものだと感じた。