コルシカ島は地中海に位置しているため、乾燥して雨が少ないというイメージがあるかもしれないが、実は2,500mを超える山塊に覆われることから比較的雨が多く、山に登ると所々フォンターナ(Fontana)と呼ばれる泉が沸く「水の島」である。
コルシカ島のミネラルウォーターの銘柄は三種類ある。非炭酸水である北西部・バラーニュ地方で採水されるジリア(Zilia)とアジャクシオ近郊のサンジョルジュ(Saint-Georges)、そして炭酸水の中東部・カシュタニッチャ地方のオレッツァ(Orezza)である。非炭酸水の二種は比較的日本人にも飲みやすく、安価で購入することができる。さらに、こうした良質の豊富な水を使ったビールやウィスキーなどのアルコール類の生産も行われている。一方、オレッツァは古代ローマ時代から存在する、鉄分も非常に多く含む炭酸水である。「辛い水」や「酸っぱい水」(Acqua acitosa)と呼ばれ、厳しい基準を満たした最新の設備によって採取された、水の高いクオリティをそのままボトリングされ、出荷される採水量が非常に少ない稀少価値のある「幻の水」である。実際に飲んでみて、非炭酸水はフランス本土に販売されているミネラルウォーターと変わらぬ美味しさでより安価で手に入る。オレッツァは炭酸水のため、ペリエのような味がする印象であった。硬水であるため、スポーツの後のミネラル補給に良く、口当たりが少し悪いのは食品のタンパク質、糖質、脂質などがミネラル成分と反応しているためである。
特に日本とフランスにおいて、ミネラルウォーターの採水には大きな違いがある。日本は一つの水源地から複数の企業や会社が複数の銘柄で採取している。つまり、日本では同じ水源地をもつ複数の銘柄のボトルが売られているのだ。しかし、フランスは法律により一つの水源地に複数の企業が採取し、複数の銘柄で販売することが禁じられている。水源地と消費者を保護することが目的である。無論、ミネラルウォーターの保護方法や採水温度の一定を保つことなど、規定は一般の水と違うことはどの国もほぼ変わらない。しかし、フランスの方がこだわりも強く、厳密且つより規定が定められている。
コルシカ島の河川はヨーロッパの代表的な川、ライン川やセーヌ川のような汚い川とは違い、清潔で綺麗な清水である。長さは短く、川幅も細く、急流が多い。また、雪や氷が降り積もり、水源となる。コルシカ島においてのミネラルウォーターの生産が開始されたのは日本の江戸時代の1856年である。島のあちらこちらには温泉が沸いているが、日本の基準で言えばこれは「鉱泉」にあたる。当初はミネラルウォーターの生産というよりも湯治場としての保養地であった。湯治場とは特定の疫病の温泉療養を行うため、長期滞留を強いられる者のための温泉地であり、オレッツァも第一次大戦が終了するまでは大変にぎわっていたようだ。残念ながら保養施設は今閉鎖されているが、炭酸水の採取活動は現在も続けられている。