イギリスSV

多様性あふれるロンドンのセカンダリースクールとモスク

加藤麗奈(人間文化課程 2年)
松本佳奈(人間文化課程 2年)

8日間のロンドンSVも大詰めを迎えた2月22日と23日。SV6日目の22日にはセカンダリースクール1の、7日目の23日にはモスクの見学を行った。

6日目は、まず始めに、セカンダリースクール近くの教会で司祭をされているジョナサンさんのご自宅に伺い、ロンドン南部における移民の動向についてレクチャーをしていただいた。予想していたよりも、移民の数が多く驚いた。午後に見学をするセカンダリースクールでは、その様子をじかに目にすることができると聞いた。

次に、いよいよセカンダリースクールの見学に向かった。訪問したのは、ARK All Saints Academy(以下、AASA)という、その地域に4つある公立中等学校のうちの1つである。生徒数は600名ほど。案内をしてくださったのはルーシー校長先生で、学校中を歩き回って、各教室の設備や授業風景を見学した。
見学開始直後、校長先生は校舎の壁にかかれた4つの「価値(VALUE)」についてお話ししてくれた。その「価値」とは「信頼(CONFIDENCE)」・「誠実(INTEGRITY)」・「責任(RESPONSIBILITY)」・「成功(SUCCESS)」である。これらをもった人間に価値をおき、そのための教育を生徒に施していくことが学校のビジョンとなっている。

イギリスSV2017:校内の目立つ壁に4つの価値(VALUE)が掲げられている

校内の目立つ壁に4つの価値(VALUE)が掲げられている

見学しながら実感したのは、生徒・教員のエスニシティの多様性である。白人も黒人も同数くらいで、とても自然に、当たり前に共存していた。確かに、彼らには視覚的に感じられるエスニシティによる差異はあった。しかし、それが特別に彼らの生活、人間関係において影響する、必ずしもなんらかの問題発生につながるわけではないということが目に見えて分かった。しかし、その裏にはきっと、異なるエスニシティとふれて生じる戸惑い、その中で共生するため必要なお互いへの気遣いが隠れていたのだろう。そのような様々な違いを受け入れ、環境に適応しながら、自分の力を発揮する方法をこの学校の生徒たちは身につけていくはずだ。
さて、日本の教育現場はどうだろうか。大きく異なるのは、移民の子どもたちと同級生になるというケースがあまりないということである。日本の国籍を有した日本人の生徒がほとんどである環境では、文化や社会の違いを生活の中で感じることもなく、ある意味過ごしやすいのかもしれない。しかし、それは自分だけにしかない何かを見つけることや、移民などの世界をみて初めて認識できる存在を、自分事として捉えることが難しくなるということにもつながってくる。このように、今回の訪問は私たちが当たり前に受けてきた日本の教育について改めて考える良いきっかけとなった。また、教育の現場に限らず、違いをもつ他者との付き合い方という視点でも、今回学んだことを振り返っていければと思う。

7日目、私たちはモスクに訪れた。このモスクは、正式名称をOld Kent Road Mosqueと言い、ロンドン南部のOval Stationの近くに位置している。そしてこのモスクではナイジェリア人コミュニティの人々が集い、礼拝が行われている。
モスクに入る際、女子学生はヒジャブの代わりに自分達のマフラーやストールで髪を覆った。日本でそのような体験をすることはないため、新鮮さを感じた。いざモスクの中へ入ると、そこには外とは全く異なる神聖な雰囲気が漂っていた。ニュース番組などでモスクの内部を目にしたことはあったものの、実際に中に入るのは初めてだったため、今までに経験したことのない、独特で落ち着いた雰囲気には驚いた。
そして、私たちは男女別に礼拝室へ案内していただいた。私たちが入った礼拝室には女性しかおらず、イスラームの教えが体現されていると感じた。さらに、私たちは、礼拝をおこなう前に体を洗浄する、「ウドゥー」を行う部屋へも案内していただいた。イスラームでは、礼拝前に心身の汚れを洗浄することが信仰の一部であるとされているそうだ。彼女たちは、手、顔、頭、足などを順番に洗い、体を清めていた。日本でも、神社でお参りをする前に手を洗い、口を清める手水の作法がある。異なる宗教の間にも、同じような作法が存在することは興味深い。

イギリスSV2017:モスクで礼拝する女性たち

モスクで礼拝する女性たち

イギリスSV2017:モスクの外観

モスクの外観

また、このモスクではキリスト教会との交流活動が行われているという。お互いの宗教を知ることによって警戒心が薄れ、それぞれの宗教を受け入れる心構えができ、信頼感が生まれたそうだ。交流活動のお話を聞き、「自分が全く知らなかったことを知る、知らないことを知る、知ろうとする」ということは本当に大切だと感じた。日本にいるだけでは、イスラームの方とお話をしたり、その教義や活動について考えたりすることはほとんどない。それゆえ、誤った偏見を持ってしまうこともあるだろう。実際に、私自身も「イスラームは教義が厳格である」と思っていた。しかし、イスラームの方は「毎日祈りをささげることは、まったく難しいことではありません」と話していた。今回の訪問やお話を聞くことを通して、私はイスラームに対して持っていた偏見を取り払うことができた。実際に訪れることからしか得られないものを得ることができ、大変有意義な訪問であったと感じる。

  • 1日本の中学校と高校に相当