LSEでのプレゼン
2月19日、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)を訪れた。ここは英国唯一の社会科学に特化した大学である。校舎はオールドウィッチに建つ。最寄りは地下鉄ホルボーン駅。周辺には大英博物館や劇場がある。今回お会いしたのはAlan Mace教授。ロンドンのダイバシティについてお話を聞いた。イギリスは多民族国家である。2011年の国勢調査によると、ロンドンの人口のうち、純粋なイギリス人は45%と少ない。実際、想像よりも人種が多様で驚いた。特にインド・パキスタン系の人を見かけることが多かったが、これは、インドが大英帝国時代植民地であったためだという。また、ロンドンオリンピック開催による人口流入も挙げられる。しかし、かつてスラムと呼ばれたイースト・エンド地区も、今は移民の街と呼ばれ、観光地である。ロンドンの街から、互いの文化を尊重する大切さ、多様性を受け入れ発展する可能性を学ぶことができた。また、学生によって都市における社会問題をテーマに、英語で発表を行った。3グループそれぞれが「Local community building」「kids dinner」「Okinawan people who went over to Japan」についてLSEの学生と教授にプレゼンをする。私たちのつたない英語でも真剣に耳を傾け、必ず質問をしてくださったことは本当に感謝している。日本の学生とは違う観点からの指摘をもらい、刺激的な経験になった。研究内容、語学、授業参加などさまざまな課題が見つかった1日だった。
グレンフェルタワー
2日後の2月21日には、ロンドン大学のバークベック・カレッジを訪問。この日お話を伺った教授だが、実は彼はストライキの真最中。大学組合による退職後の年金受給について戦っている。130校のイギリスの大学のうち60以上が行っている今回のストライキ。期間も4週間という大規模。この時期では卒業前で忙しい学生にとっては大変なのではないかと心配になったが、学費高騰問題や大学政策も争点のひとつであり、学生にとっても重要であることが分かった。
講義のテーマはソーシャルハウジングだ。実は、私たちは2月18日に、2017年6月14日に火災が起き話題となった、グレンフェルタワーを訪問していた。グレンフェルタワーは24階建の公営高層住宅で70〜80人もの死者を出す火災が発生した。グレンフェルタワーに近づくにつれ、真っ黒な建物がそびえ立つ様子が目にできた。タワーは建物の中まで真っ黒になっており、火事の悲惨さを物語っていた。この火災からは、ロンドンにおける社会問題が浮き彫りにされた。グレンフェルタワーはケンジントン・アンド・チェルシー行政区により建設された低所得者向けの公営住宅であった。私は何故高層住宅に低所得者が住むのか、という疑問を抱いたが、これには英国におけるソーシャルハウジング問題が背景にある。今回の講義にはそのヒントがあった。英国では1900年以降、それまでチャリティー団体が行なっていた住宅建設を行政が代わりに行うようになった。1945年〜1961年には89.1%もの公営住宅が建設され、中には高層住宅も含まれていた。これらの建物は安い建築費で短期間建設されたため、問題のある建物が多く、改築が必要になっていた。1974年に建設されたグレンフェルタワーも改築対象となった。しかし、その際に使用された見栄えを良くするための外装保護材が大火災を引き起こす一因となった。また、非常階段やスプリンクラーなどの防火対策も充分ではなく誤った安全対策が施されていた。グレンフェルタワー周辺にはケンジントン宮殿が存在し高級住宅街としても知られている。しかし、ノッティングヒルより北の地域は貧困地帯となっており、低所得の移民たちにとってグレンフェルタワー周辺の低価格な住宅は貴重な存在だったのだ。ロンドンにはダイバシティと同時に社会格差もある。特に住宅問題で、それが顕著になる。グレンフェルタワーには多くの違法入居者がいたようだし、今も住む家を見つけられていない被災者もいる。ひとつの火災が難しい問題を浮き彫りにしてしまったように感じた。