私は、観光にとって文化や歴史というものはとても重要だと考える。歴史ある場所やかつての偉人にまつわるものは、たとえ詳しくない人々の興味すらかきたてるものだし、知らぬ土地の知らぬ文化に触れることは旅行の醍醐味ともいえる。ウィーンはその点、歴史も古く、文化もしっかりと感じられる場所である。そのウィーンの数ある文化の中で、私は「カフェ文化」を取り上げた。その中でも特に、美術館や博物館、宮殿などつまり施設内にあるカフェに注目した。日本の美術館などでももちろんカフェはあるが、それはあくまで美術館の休憩所、おまけのような印象を受ける。それに対してカフェが文化として有名なウィーンの施設では、そのカフェ目当てに行く観光客もいる。ウィーンでそれらがどのような使われ方をされているのか、またそこにある意味について考えた。
私は今回の調査で様々な施設のカフェに行ったが、驚いたのはどのカフェも店によってそれぞれ雰囲気が全く違っていたことだった。
例えば美術史美術館のカフェ(レストラン)は、高く突き抜けた天井、壁、テーブル、何から何まで豪華に作り上げられていた。その華麗な内装は美術史美術館の雰囲気にもふさわしく、カフェ自体が展示の一部のような印象を私たちに持たせた。シェーンブルン宮殿の動物園にあるカイザーパビリオンというカフェもまた、宮殿らしいつくりであった。丸い形の少し小さめの建物の中には、中心にシェーンブルン宮殿の中のものと同じような大きなシャンデリアがあり、また外観も細かなところまで凝ったものであった。外から見ても中にいても、王宮気分を味わえる場所であった。
美術史美術館のカフェ。床やソファも雰囲気に合っていて、周りも豪華なつくりである。
対してベルヴェデーレ宮殿(上宮)のカフェは想像していたよりも簡素な印象を受けた。宮殿のカフェといってもカイザーパビリオンとはまた違って、こちらは小さめで美術館に付属する“休憩所”のような雰囲気を感じた。またMAK応用美術館のサロンプラフォンドのように、美術館に併設のカフェであっても館内に入らずに地元の人々が普通に利用できるカフェもあった。
また、当然だが店によってコーヒーや他のメニューの値段もそれぞれ異なっていた。しかしどの店にも、日本の美術館によくある限定メニューや、特にこれが有名、といったメニューがあるわけではないと感じた。
また、法務省のカフェ、ユースティスカフェ(Justizcafe)にも行ってみた。ここはウィーンの法務省にあるいわゆる社員食堂のようなもので、主に法務省で勤める人々が利用しているが一般人にも開放している。私でも簡単なボディチェックを終えたのち、入って食事することができた。中はふつうの社員食堂のような感じであったが、しかしガラス張りで、席からは外のウィーンの街が一望できた。テラス席もあり、天気のいい日には空の下でのランチもできる。ここはウィーンの地元の観光誌にも載っており、一般の人も多く来る場所であるようだった。しかし地元の人にしか分からないようなところであると思いきや、日本の観光誌にも載っていたことは興味深かった。社員食堂で、ある意味「ウィーン」感が思い切り感じられるカフェとは言えない場所にも関わらず日本人の観光客向けの本に書かれていたのは面白いと思った。
Justizcafeで食べたランチ。価格はお手頃で、味も良かった。
私がこれらのことから気づいたことは、ひとくちに「ウィーンのカフェ」と言ってもその中身は様々であるということだった。ウィーン市内の普通のカフェと施設にあるものでもまた違っていた。美術館や宮殿にあるカフェは、どちらかというと観光客用でありテーマパーク的なものが多く、客をその世界観から追い出させないものであった。そしてその雰囲気づくりは無理になされているのものではなく、自然にできているもののように感じた。また市内のカフェでもテーマパーク的なところがあるのも興味深かった。中身は様々であっても、ウィーンの美術館、宮殿のカフェはそれだけで観光として成り立ち、また施設そのものの観光を盛り上げる効果もあると思った。施設内のカフェは単なる休憩のためだけではなく、施設をより楽しむための一つの方法であると感じた。
長い歴史の中においてウィーンで愛されてきたカフェ文化が、様々な場所でときに形を変えて今、市民にも観光客にも愛され、またウィーン全体の観光を盛り上げているようにも思える。カフェ文化無しにウィーンは語れないものかもしれない。