パラグアイSV

カテウラ

齋藤誠仁
教育人間科学部人間文化課程 2年

1. カテウラとは

カテウラ地域はパラグアイの首都アスンシオンの南西部の市街地の外れ、パラグアイ川沿いに広がるスラムである。昨年度のSVパラグアイ渡航報告書によると、この地域の行政上の正式名称は「Bañado de Asunción」であり、カテウラという呼称はこの地域に初めて移り住んだ人の名前に由来すると言われている。

カテウラは埋め立て場となっているゴミ山地域であるが、その中には何軒もの家が建っており貧困層の人々が 暮らしている。また地域共同体も存在し、まさに一つの町のようになっている。

2. 背景と目的

2015年には、エルニーニョ現象の影響もあり、パラグアイでは大雨が続き、カテウラに隣接するパラグアイ川の氾濫による地域一帯の浸水などの洪水被害が確認された。

2016年5月に藤掛洋子教授がカテウラを訪問した際、地域住民の方より、浸水時に利用可能な道を作って欲しいという要望を受けた。現地のニーズに加えて、昨年度のSVパラグアイ渡航の際、京都大学教授でありNPO法人道普請人代表の木村亮教授のご協力により、F村において道直しプロジェクトを行った経験から、カテウラにおける道直しプロジェクトの実施可能性を検討 するため、今回の調査の実施に至った。

本調査における目的は二つある。一つ目は昨年度に引き続き、カテウラの住民の生活実態調査を行うことで、地域住民の道直しプロジェクトに対するニーズを明らかにし、実際に道直しプロジェクトを開始する際のコンセンサスにおける問題を避ける。二つ目は、道の状態を中心とした、カテウラの概括的な土地状況について明らかにすることである。以上のことから、今後のカテウラにおける道直しプロジェクトの実施可能性を検討する。

3. 調査方法・調査対象地域・調査対象者・調査時期

  • 調査方法
    参与観察法、インタビュー(質問表、半構造化インタビュー)
  • 調査対象地域・調査対象者
    カテウラに住む25歳から65歳の男女20人(質問票)及び、13歳から19歳の男女20人(質問票)。また、カテウラで活動するNPO団体、JuvenSurのメンバー(ヒアリング)。
  • 調査期間
    8月26日、31日、9月1日、(3日、8日)
  • 調査結果
    • 8月26日 カテウラ訪問
    • 8月31日 カテウラ訪問
    • 9月1日 カテウラ訪問(コミュニティラジオ(93.5FM Solidaridad)への出演)
    • 9月3日 JuvenSurとのミーティング
    • 9月8日 JuvenSurとのミーティング

今年度の渡航ではNIHON GAKKO大学の先生方をはじめ、現地NPO、JuvenSurのメンバーなど、たくさんの方々のアレンジにより、各日、数時間ずつではあるが、3日間カテウラを訪問することができた。またJuvenSurのメンバーとは、カテウラの外で2日間、ヒアリングやディスカッションの機会があった。

住民の生活実態を明らかにするために用意した子どもに対するヒアリング調査及び、道直しプロジェクトにおけるニーズ調査のための質問票については、住民一人一人にヒアリング調査を行うための十分な時間を確保することができなかったため、JuvenSurのメンバーを通して実施した。彼らの協力のもと、それぞれの調査に対して20人ずつ、回答を得ることができた。

今回の調査で明らかになったことは、カテウラで生活する住民にとって道直しのニーズは低いということである。JuvenSurのメンバーである、A氏によるとカテウラでは行政がインフラ整備を行わないため、住民が自分たち自身で道路や電気などのインフラを整備してきたという歴史があり、以前よりアスンシオン市役所に対してインフラ整備について要求してきたが、返事がないという。

また、道については未舗装のものが多く、整備の必要はあるが、浸水時ということを考慮すると、そもそも道は水の底になっているため、道を利用する以外の移動手段を考えなければ意味がないという。

同じくJuvenSurのメンバーである、N氏によると、カテウラではインフラ整備よりも先に、住民の教育環境や文化的素養を育む必要があるという。カテウラでは生活のために働く必要があり、学校に通うことができない子どもたちも多い。また、学校に通うことができる子どもたちでさえも、カテウラではアルコールやドラッグ、暴力に晒される危険が極めて高く、子どもが犯罪に巻き込まれることも少なくない。

これらのことから、カテウラ出身の人々は、首都の中心部などでは、カテウラの出身ということがある種のスティグマとして認識されており、カテウラの出身というだけで犯罪者として扱われることや、疑いをかけられることがあり、就職することにすら困難があるという。

N氏によると、カテウラの人々がきちんとした教育機会に恵まれ、文化的素養を身につけることさえできれば、こういった社会の偏見や差別を払拭することにつながり、結果的に行政からもカテウラが一つの地域として承認される。そうなれば、インフラ整備などは、行政の方から率先して行われるだろうという。

今後JuvenSurとしては、カテウラの住民一人一人の個人としての成長と共同体としての成長、またカテウラの外でのスティグマの払拭を目的として、複合型文化施設の建設と、広告企業兼工場の建設を考えているという。

4. 調査結果の分析

本調査結果から考察される事柄として、最も重要なものとしては私たちが考える支援と、対象地域の住民の実際のニーズの違いということが挙げられる。この支援したいという想いと現地のニーズの違いは、本調査を開始してすぐの時点で判明したものであるため、結果としては渡航準備の段階で計画していた調査内容は大きく変更され、より根本的な事柄の調査を行うに至った。このことから、調査計画を作成する際には、一人の発言を地域全体のニーズとして捉えることの危険性を考慮した上で、そのニーズが個人にとってだけでなく、地域にとってどのレベルにあるものなのかを検証するための、一段階前の質的調査を行う必要がある。

また、本調査の結果を踏まえ、プロジェクトの立ち上げや支援など、実際の行動を行う際には、ニーズに対する今回の調査結果を参考に、JuvenSurに所属していない住民たちが、JuvenSurのメンバーと同様のニーズを持っているのかどうかという三角検証を行う必要がある。

そのためにも、カテウラではどういった住民が生活を営んでおり、どういった環境に置かれているのかといった生活実態を明らかにするような基礎調査の進展が望まれるだろう。

パラグアイSV2016:COPYRIGHT 2016, 藤掛洋子研究室/撮影日:2016年9月3日

撮影日:2016年9月3日

パラグアイSV2016:COPYRIGHT 2016, 藤掛洋子研究室/撮影日:2016年9月3日

撮影日:2016年9月3日