2016年9月2日撮影
ニャンドゥティはパラグアイ共和国(以下パラグアイ)の伝統工芸品の1つであり、ニャンドゥティ製作者のほとんどがメスティソの女性である。イタグアという町で盛んに製作・販売されている。イタグア市内には2013年に開設された手工芸の専門学校があり、ニャンドゥティの学校には子どもたちもいる。(岩谷 2015:81)また、ニャンドゥティの起源の1つは、16〜17世紀に伝わったスペインのテネリーフレースであり、それとパラグアイの土着の文化が融合し現在の形へ発展していった。(岩谷 2015,8)またニャンドゥティは主に家族内で技術の伝承が行なわれており、ゆるやかなつながりの中で製作者の情報交換の場ともなっている。(藤掛編(2015))ニャンドウティは古くから教会にまつわる装飾に使われたり、女性の民族衣装やバッグ、アクセサリー、カーテンなどに使われたりしている。(岩谷 2015:14)
2014、2015年のニャンドゥティ調査によると、ニャンドゥティはほとんどの場合自由に商売が行なわれていることがわかった。一方、自力で町へ出て取引するのが困難な貧困層のニャンドゥティ製作者は総じて“組合”に加入しており、組合を介して自らのニャンドゥティを販売している。製作者たちはそういった組合の存在を知っているが、組合に入っていない人が多い。その理由としては組合の仕組みが気に入らない、組合に入る利点がないなどが挙げられる。組合に入っていない人の中では、組合の制度がもし改善されれば入っても良いという人もいる。また、組合に所属している製作者は組合に所属していない製作者に比べて収入が低いことがわかっている。そのため、組合の制度の問題点を解明し、組織の強化・向上の可能性を掴む行動をする必要がある。
加えて、賃金が低い、興味・関心が無いといった理由から、若者にニャンドゥティを継承しようとする動きが見られない。製作者の大半が年配の女性であり、インタビュー調査を行った製作者には、若者に製作方法を伝授しニャンドゥティを後の世代に伝えたいという者がいる一方、製作者であってもニャンドゥティ製作による利益が見受けられないことから、継承を行うことに賛成では無い者もいる。そのため、幅広く若者世代への調査を行い、ニャンドゥティ継承の価値・方法を調査する必要がある。
組合の存在を知っていても加入していない人が多い、そして加入していない人の中には組合のシステムが気にいらない人もいる。(渡航報告書 2014,2015)その原因として本来なら組合に入ると無料で教われる作り方が有料である、収益の支払いが遅いという昨年の調査内容があげられ、組合員(商品を買い取っている側)が有利になるような仕組みがあるのではないかという仮説を立てた。有利な仕組みというのは、売り上げのほんのわずかしか賃金として与えない、組合に加入するための入会金が存在する、といったものである。
また、2014、2015年渡航調査より組合は柔軟に買い付けが出来ない、商品の対価が支払われるのに時間がかかるなど、よい側面の情報が得られていないことから組合の悪い側面だけがニャンドゥティ販売者に伝わっているのではないかと考え、それが原因で組合に加入する販売者が少ないのではないか、という仮説を立てた。
伝統工芸品の全体の問題として後継者、資金不足、コミュニティ内外での興味の低下がある。(熊谷 2016:1)ニャンドゥティにおいても2014年、2015年の渡航調査から収入が少ないためやりたくないという意見や作り方が難しいから覚えたくないという意見があったことから、興味・関心薄れているのではないか、特に若者たちは伝統工芸品に触れる機会や時間があまり持てていないのではないかと考える。そのため若者がニャンドゥティを継承していける可能性は低いのではないかという仮説を立てた。
ピラポでのホームステイ先の若者にアンケートを行い、ニャンドゥティに対する考えや現在の興味・関心などを伺った。対象者の年齢については16歳から29歳にわたる計10名である。
アンケートの結果よりニャンドゥティは若者にも知られており、回答者10名全員が程度の差はあれども、伝統工芸品ニャンドゥティに興味があると答えた。一方で実際に作ったことがあるかという質問では9人がないと回答した。また家庭内で作り方を知っている人はいないという回答もあった。日常生活の中で興味があるものは、料理や服飾、音楽といった回答が見られた。また多くの若者が大学や専門学校に行き、法律や会計、化学などのといったことを勉強しているということが分かった。そこでの勉強を活かした職業についている人もいた。
インタビューは、2016年8月31日にアスンシオンのセントロにあるニャンドゥティを売っているお土産屋の方、同年9月2日にイタグアで二人の製作者の方々、お店の方、IPA(パラグアイ国立伝統工芸院)の先生を対象に行った。ニャンドゥティの売れ具合や後継者、今後の展望などについて伺った。
売り上げは良くなっていると答えた人が多かった。その理由として、観光客が増えてニャンドゥティを知る人も多くなっているからと答えている人がいた。しかし、作っても売れなときは1か月売れないこともあるから厳しい状況と答えた製作者もいた。
ニャンドゥティを買っていく人は様々な年代の人がいるようだが、国外の観光客が多いところではお年寄りが多いようである。また、観光客以外にもパラグアイの人もダンスの衣装用に買うということであった。
自分がニャンドゥティを製作している場合には自分の子どもには教えている人が多かった。しかし、その中で大人になっても続けていて販売している人はほとんどいなかった。
若者があまり興味を持たずやらないことは皆残念に思っていた。
ニャンドゥティの今後の展望については、総合して、日本にも広げてほしい、そしてずっと続いてほしいという意見であった。今のままではニャンドゥティはなくなってしまう、と今の状況に危機感を抱いている人もいた。今回のインタビュ-では、ニャンドゥティがなくなってしまってもよいという意見はなかった。
アンケートの結果よりニャンドゥティ自体には興味を持っているという若者が多くいるということが分かった。ホームステイ先の若者の中にはニャンドゥティに関する本を持っていたり、自分で作ってみたいと考えていたりする人もいた。ただ周りにニャンドゥティを作れる人がいるという回答は得られず、自分自身も作ったことがないという人が10人中9人を占めた。こうしたことから若者たちは興味があるものの自分で作る、またそれで収入を得ると言うことまでは考えていないのではないかと思われる。
そして多くの若者が大学などで専門的なことを勉強しており、その知識を活かした職業に就いている人も見られた。今回の調査対象者の多くが様々な分野を学ぶことができる環境におり将来の選択肢が広いため、時間の割に収入が少ない伝統工芸品の制作者になろうとは思わないのではないかと考えられる。
組合員の方へのインタビューを通して、このことについて調査を進めていく予定であったが、組合に属す人との接触が上手くいかず、インタビューをすることができたのは1人という結果になった。今回インタビューにおいても組合が15%仲介料を制作者から取っていると言うことが分かった。この15%分取られてしまうというのは収入が減り制作者にとっては生活を厳しくしている。
今回のインタビュー結果では、若者がニャンドゥティにあまり興味を持っていないことを残念に思う、また今後もニャンドゥティが継承されていってほしいという声がほとんどであった。3章の目的でも述べたように、継承を強くは勧めない人もいるようだが、今回はそのような人には出会わなかった。ニャンドゥティに関わっている人は継承を望んでいると考えられる。日本の伝統工芸にも後継者問題があるように、ニャンドゥティと若者との関わりは減ってきて、衰退に向かっているかもしれないが、それは残念であり、継承したいと思っている当事者の方々がいる限り、それに向けて活動をしていく価値はあるように思われる。あるお店の方には、次回来るときにもう少し早く連絡してくれれば職人さんたちとディスカッションできる、と言っていただいた。来年度の渡航の際にはぜひ早めに連絡を取り始め、ニャンドゥティの文化を終わらせないために今後どのようなプロジェクトができるか、また私たちが協力できることはあるか、などをディスカッションし活動につなげてもらいたい。