私は、シンガポールSVを通じて、アニメ等の日本文化がシンガポールでいかに受容・消費されているか学びました。
シンガポールは、日中米の文化が入り混じる独自の文化を持つ国です。中国思想の影響を受けつつ、アメリカンコミックやそのグッズが商店に並び、日本のアニメグッズを扱う専門店もシンガポール市内に複数存在します。
私達はシンガポール国立大学やSingapore Institute of Managementの日本アニメ・漫画愛好する学生と交流する機会を持ち、実際の彼らのオタク活動について質問した他、街のオタクショップに関する情報も得ました。彼らによれば、テレビで日本のアニメが普通に放映されている事や、インターネットで見られるファンサブ(ファンによって字幕をつけられたアニメ動画)の拡大によって、シンガポールにおいても日本の漫画・アニメ文化は広く普及しているとの事でした。私達の滞在期間中にも、現地の映像配給会社主催で日本のアニメ映画を上映するイベントが行われており、コスプレをして参加する人々の姿も見受けられました。
しかし、こうしたファン達が存在している反面で、そのソフトパワーの利益化は未だ不十分である事実も見て取れました。シンガポールにおけるオタクショップの品揃えは日本国内のキャラクターグッズ店と比べても遜色ない物ですが、その価格は往々にして日本国内の2倍程度であり、ファン達は通販を利用する、日本へ行った際にグッズを買い集める等の方法をとっていました。
そんな中で印象深かったのが、ブシロードによるカードゲームの浸透度合です。ブシロードはシンガポールでのカードゲーム大会に国内と同様の景品を付けたり、カードゲームをテーマにしたコンセプトカフェを展開するなど、海外展開に注力している事が感じられました。ブシロードの扱うカードゲームの漫画・アニメが現地の漫画雑誌に取り上げられ、カードゲームのプロデューサーのインタビューが掲載されるなど、その企業努力はおおむね功を奏していると考えられ、今後他の企業も倣って行けるのでは、と感じました。
インターネットの普及した今日、日本式の物語展開が受け入れられやすいアジア圏の一国として、シンガポールにも日本のオタク文化が強く浸透しており、現地には多くのファンが存在しています。一方で、ブシロードのような例外も存在するものの、そうしたファンの熱量を利益に転換する施策は十分とは言えず、今後の日本企業・日本政府の努力が期待されるという現状も見えてきました。
実際に現地に赴き、そこで日々の生活を行っているファンと交流する機会を持てた事は多くの知見に繋がり、日本のポピュラー文化に関わる研究を行っている私にとって、このシンガポールSVは非常に貴重な経験となりました。