パラグアイSV

農村における国際協力の実践

JICA草の根技術協力プロジェクト:パラグアイ農村女性の生活
改善プロジェクトの視察・実践

私たちは今回、国際協力の現場を見て、実践して学ぶということを目指していたので、藤掛洋子教授がプロジェクト・マネージャーとして2016年9月より実施されている「JICA草の根技術協力:パラグアイ農村女性の生活改善プロジェクト」の視察を行った。場所はパラグアリ県ラ・コルメナ市とカアグアス県コロネル・オビエド市である。

学生たちは、コルメナの女性たちとグループワークを行い、現在行っている活動についてどのように思っているのか、これからどのような活動をしていきたい、またはしていったらいいと思っているのかについてディスカッションを行った。女性たちは一様に熱意に溢れた様子で自らの活動の振り返りと今後の活動への期待を語ってくれたことが私たちにとって大変印象的であった。

また、坂田有紀奈がコスト計算を、樋口円華が運動指導を行った。コスト計算では、女性たちが現在作っているお菓子やジャムの原価を知ってもらうために、簡単な原価計算のレクチャーを行った。今まで人に教える経験がなかった分、準備は大変ではあったが、できるだけわかりやすいようにイラストを用いたり、クイズ形式にしたりして女性たちが参加できるように努力した。また、実際のワークショップでは、参加メンバー全員が参加して小グループに分かれてコスト計算の実践も行った。仲間の協力もあり、やり遂げることができた。最後に、このプロジェクトで製造している加工食品を今後販売していくことも視野に入れ、ブランディングに関する講義もサポートした。人目をひくラッピングなどである。

ラ・コルメナのほかに2017年度から活動を始めるコロネル・オビエド市域の農村でも農村女性の活動を視察させて頂いたが、そこでの女性たちの様子は、ラ・コルメナの女性たちのそれとはまるで違い、まるで自信のない様子であった。国際協力の実践活動によって、1年でこれほどまで人は変わるのかと驚き、国際協力の魅力と可能性を強く感じた。

パラグアイSV2017:誇らしげなラ・コルメナの女性たち

誇らしげなラ・コルメナの女性たち

国際協力の現場では、どんな活動もまずは内容を簡潔・明快にして、かつ参加者の興味を引くようにしなければならない。それは非常に難しいものであるが、それをどのように工夫するかでプロジェクトの継続と成功に関わってくるということを、今回の視察とサポートを通して学んだ。そしてこれから私たちが活動する中で、それを成し遂げられた時の達成感とすばらしさに国際協力の魅力があるとこの二つの活動は教えてくれた。

教育実践

私たちは農村部等において以下の調査と実践活動を行った。この地域は、本学が交流協定を締結している国際NGO(注2参照)の活動サイトであり、ラポールが築かれている場所でもある。
 (1) 農村の人々の生活の様子を食文化の視点から調査
 (2) 農村部の小学校において小学生を対象にした科学実験
 (3) 農村部の小学校において小学生を対象にした栄養教室
である。

(1) 農村部の人々の生活調査

パラグアイの農村の人々の多くは、マンディオカ(キャッサバ)芋や豆類などを自給自足で作るとともに、メルコスールへの加盟により野菜を栽培するようになってきたが、多く食す習慣はあまりなかった。しかし、戦前・戦後に日本人がパラグアイに移住し、パラグアイで野菜栽培を広めたことで、野菜が普及してきたと言われている。今日でも農村部における野菜の消費はまだ不足しているのではないかと思われる。私たちがパラグアイの農村に滞在している間も、野菜を食べる機会はあまり多くなかったからである。このことから考えると、野菜不足による栄養素や食物繊維の摂取不足や偏りが想定される。私たちは、現地の方が栄養に関してどの程度の関心と知識があるのか調査することにした。前年度の調査結果や論文などを先行研究として、現地の方々と問題分析をすることから、今後行う予定の栄養講座や料理デモンストレーションをする際に役立てるとともに、地域住民の栄養改善に寄与できるのではないかと考えた。

調査結果は以下の通りである。今回インタビューに協力頂いた方々は全員これまでの経験や両親、農業改良普及員、生活改善普及員、近所の人々との情報交換を通し、野菜栽培や野菜摂取の知識を獲得し、多くの家畜を飼育していた。しかし、家庭で食べる野菜となるとどの世帯もトマトやレタス、ネギなど数種類の野菜しか摂取していないことがわかり、知識はあっても日常の食生活の中に取り入れられていない部分があるように見受けられた。

(2) 栄養教室

先行研究を通し、パラグアイの農村部では人々の栄養に関する知識や関心が低いことが明らかになった。また、食生活における栄養の偏りの一因として、栄養教育が不十分であることが明らかになった。加えて日本食を知りたいというニーズがあったことから、食を通じた文化交流の場として、野菜や肉をバランス良く摂取できる日本料理(カレーであるが)の紹介、栄養ワークショップを企画した。

栄養ワークショップでは、子供たちにバランスよく栄養を摂取することの重要性を伝えるとともに、炭水化物、たんぱく質、ビタミンの三色食品群の説明をし、その後、実際に食べ物の三色色分けゲームを行った。栄養の必要性については3期生、4期生も講習会を実施していたが、世代やメンバーも変わっていたことから、積極的に参加してくれた。子どもたちは「楽しかった」と喜んでくれた。

ホームステイ先や食文化交流の場で感じるのは、肉や炭水化物に偏った食生活が中心であることからなのか、肥満気味の人が多いことである。栄養をバランスよく摂取することは一つの習慣であるため、長期に渡り伝えていく必要があると感じた。

今回、栄養教室で使用したポスターを一点しか作成しなかったため、それぞれの小学校に渡せるよう次回からは訪問学校数分を作成することを学んだ。子ども達の頭の中に、「栄養バランスの必要性」が定着するよう、なんらかの支援をしていきたいと考えた。

パラグアイSV2017:農村の子どもたちとのグループワーク

農村の子どもたちとのグループワーク

(3) 調査と科学実験:濾過実験

パラグアイの農村では教育における複数の課題が存在していることが先行研究より明らかになった。①インフラの問題 ②教育制度の問題 ③経済的な問題 ④教育に対する意識の問題である。また、子どもが学校に通わない理由の一つに授業への魅力の不足があるのかもしれないと考えた。そこで私たちは簡単な調査を実施するとともに科学実験として濾過実験を行い、子どもたちが学校に来たくなるような授業を展開してみることに挑戦した。また、その科学実験の授業が継続して行われるように、いくつか授業例を文章としてまとめ、現地に置いてくることを目的とした。

3つの小学校で科学実験を行ったが、全体を通した反省としては、説明時に少し難しい言い回しをしてしまったため、濾過の原理を生徒たちに理解してもらうことが困難であったことである。また、実験に積極的に参加してくれたため参加型という意味においては良かったのであるが、実験を勉強ではなく遊びととらえてしまった可能性があった。子どもたちの実験への参加態度やインタビューの結果から、今回先行研究より導き出した義務教育への子どもの通学率が低いという仮説自体が間違っていた可能性がある。実際にS村の校長先生に子どもたちの通学状況について質問したところ通学率が低下していることは見受けられないとのことであった。勉強自体には興味があるが、学校の授業に満足していない生徒がいるという新しい仮説が浮上した。これに加えて子どもたちに対し、将来なりたい職業について質問をした。その答えとして医者、建築家、サッカー選手のこの三種の職業をほとんどの子どもたちが返答した。この三種は特にお金が稼げる職業であると思われるが、それ以外の職業を挙げる子どもが少なかった点に注目したい。多くの職業に触れる機会が少ないからか、又は日本の子どもたちと違い将来の夢においても経済面を特に重視するのかなどと様々な視点が浮かんできた。これについては来年度のメンバーに調査課題として引き継ぎたいと考える。

パラグアイSV2017:濾過実験の様子

濾過実験の様子