フランスSV

ツアー概要

フランスおよびベルギーSVは、2月10日〜23日の14日間、以下のスケジュールにて実施された。フランスは本学と提携関係にあるリヨン第三大学を受け入れ校とし、リヨンとその周辺を訪れた。SVで初となるベルギーは、同国南部、フランス語圏にあるリエージュ県の県都リエージュ市および同県のヴェルヴィエ、スパ市を訪問した。

なお、同期間、中国武漢で新型肺炎コロナウィルスが猛威を振るい、その後、日本や欧州にも拡大するパンデミックとなったが、SV期間の2月中旬時点ではフランス・ベルギー両国ともにまだ感染者も数名以下であり、またこれに伴う差別的待遇やその他の疾病、事故等に遭遇することもなく、無事に全員帰国することができた。

  • 2月10日 パリよりTGVでリヨン・パールデュー駅到着。宿泊地(ベルクール広場近くのアパルトマン)到着。夜はブション(リヨン風庶民レストラン)でリヨン料理を賞味する。
  • 2月11日 ガロロマンス(ローマ支配後のガリア)、フルヴィエール・ノートルダム寺院、旧リヨン地区でギニョル観劇、リヨン建築の特徴である「トラブール」構造を見学
  • 2月12日 リヨン郊外:世界遺産で近代建築家ル・コルビュジエが設計したラ・トゥーレット修道院(エヴルー)見学。ワインカーヴ見学(ラルブレル)
  • 2月13日 リヨン第三大学日本語学科学生との合同ゼミ
  • 2月14日 クロワ・ルッス地区でリヨンの伝統工芸及び近代産業である絹工房見学、リュミエール博物館見学
  • 2月15日 移動日:リヨンからベルギーのリエージュへ移動(TGV・ベルギー国鉄)
  • 2月16日 リエージュ名所のビューラン階段見学、リエージュのビール銘柄である「クルティウス」の醸造所見学
  • 2月17日 古代ローマ遺跡(サン・ランベール広場地下)、カール大帝像、ギユマン駅舎、第一次大戦100周年記念塔、鋳鉄製鉄博物館見学
  • 2月18日 シテ・ミルワール(鏡の都市)、リエージュ劇場、ワロン民俗博物館見学
  • 2月19日 ヴェルヴィエのショコラティエ「ダルシー」の工房・博物館見学、その後温泉保養都市スパに移動し、スパ保養浴場に入浴
  • 2月20日 移動日:リエージュからパリへ移動(ベルギー国鉄、Thalys)
  • 2月21・22日 ベルシー倉庫街再開発地区見学、その後隣接するコルシカ文化センター「エスパス・シルネア」訪問。
  • 2月23日 パリ出発(翌日日本帰国・解散)

フランスの書店

小島泉澄
都市科学部 2年

日本ではネット書店や電子書籍市場の拡大などによるリアルの書店の減少が問題になっている。特に、地方の小型書店ではその傾向が顕著である。しかし、フランスでは地方部であっても街中に小さな書店が多く見られた。そのような書店では、1〜2人しかいない店員が店番をしながら本を読んだりとゆったりとした時間が流れていた。しかし、閑古鳥が鳴いているようなことはなく、休みなく客が訪れていた。

フランスには書店を守るためのいくつかの法律が存在する。1981年に成立したラング法は、本の定価販売を義務付ける法律であり、5%までしか割引が認められていない。この法律は大型書店チェーンから個人書店を守ることを目的として制定された。ただし、第5条に記された時限再販という制度により、一定期間経過後は自由な価格で販売できる。

さらに、2014年に成立した反アマゾン法はオンライン書店が値引きした書籍を送料無料で配送することを禁じる法律であり、リアルの書店を守るためのものである。フランスに小さな書店が今でも残っている背景にはこのような取り組みがある。

続いて、特徴的だった、大きな書店の陳列についてである。日本では出版社別に陳列されることがほとんどであるが、フランスでは出版社に関係なく作家別に陳列されていた。さらに、Litterature(文学)は、littérature française(フランス文学)、littérature étrangere(外国文学)の他にlittérature du monde(フランス語圏文学)のカテゴリーが存在し、過去に多くの植民地を持ち移民も多く暮らすフランスならではであると思った。またPolar(推理小説)も文学とは別コーナーになっていて興味深かった。

フランスSV2019:

リヨンのある書店におけるBD(バンド・デシネ=フランス語圏の漫画)の陳列。
日本のmangaはサイズが異なるためか別に陳列されている。

ちなみに日本の書店では主力商品とされる雑誌は、フランスの書店では 販売されておらず、雑誌や新聞はTABACと呼ばれるタバコ店(タバコとその関連品以外に軽食、飲料、文具、手紙、グリーティングカードやバス・地下鉄の回数券なども売られ、ちょっとしたコンビニの雰囲気である)やPRESSEと書かれた新聞・雑誌専門店(こちらも文庫本や小型の書籍なら売られている)で販売されている。

以上の他にもJEUNESSE(児童書)、VOYAGES(旅行本)、BD&MANGAS(漫画)などの売り場があった。そのなかでも漫画について詳しく述べていく。

日本では「絵を連続させ、多くは台詞(せりふ)を伴って物語風にしたもの」の総称として漫画の語が使われるが、フランスでは、Manga(漫画)、Comic(コミック)、そしてBD(バンド・デシネ)がそれぞれ明確に別のものを指す。Mangaは日本風の漫画、Comicはアメリカン・コミックのことである。そして、最も聞き馴染みのないであろうBD(バンド・デシネ=bandes dessinées=帯状、連続した絵の意)とは、フランス・ベルギー・スイスなどのフランス語圏で広く読まれる漫画のことである。ストーリーよりもビジュアルに重点がおかれ、描き下ろしで多色刷りのハードカバーの単行本で出版されることが多い。このBDが大人向きで高価だったことから、少年少女をターゲットとしたBDに比べて安価なMangaがフランスで市民権を獲得した。実際、Manga売り場には多くの人がいて、漫画専門店も繁盛していた。さらには街中でもマクドナルドのポスターに岸本斉史による日本の漫画作品『NARUTO -ナルト-』の主人公ナルトが起用されていて、フランスの人々にとってもとても身近なものだと感じた。


「第四の壁」を打ち破るギニョル

並木栞里
大学院都市イノベーション学府修士 1年

リヨン滞在二日目の昼、“ギニョル”を見に行った。

ギニョルはフランス・リヨン生まれの人形劇。はじめは労働者向けの風刺劇として人気を博していたが、誕生から200年が経った現在、その上演作品のほとんどは子供向けの作品となっている。

同様の人形劇は、私たちが訪問したベルギー・リエージュにも存在しており、こちらはチャンチェと呼ばれる。ギニョルがパペットであるのに対して、チャンチェはマリオネットである。調べてみるとリヨンのギニョルとリエージュのチャンチェにはいくつか共通点が あることが分かった。両方とも、①起源は比較的近年の19世紀であること、②16世紀イタリアの喜劇道化師プリチネッラが変化したもの、③もともと労働者・職人たちの風刺的余興として人気を博していたがその後子ども向け人形劇として定着したもの、である。リヨンもリエージュも19世紀、業種は違うが(絹織物と鋳鉄業)、労働者・工夫・職人の町として発展し、その中で民衆劇として人形が導入されたのだろう。

フランスSV2019:

ギニョル劇

私たちが観劇したギニョル『ドティの願い』の上映時間は48分、料金は大人ひとり11€である。

上演は地下の劇場で行われた。上演10分前の時点で、40人規模の会場は既に半分以上埋まっていた。ほとんどは子連れの家族であり、親子三世代で訪れている観客の姿も見受けられた。子どもの年齢も、下は3歳くらいから上は小学校低学年くらいまでとさまざまである。

フランスSV2019:

ギニョルの小劇場

私が度肝を抜かれたのは、冒頭5分過ぎ、観客の一人である少年の言葉に人形が反応したときだった。それは6歳くらいの男の子だったが、ストーリーの流れを阻害しない程度の彼の発話に、人形がくるりと彼のほうを向いて応えたのである。そのあとも劇が終わるまで、人形たちは子供たちから投げかけられる多くの発言に答えていった。

主に舞台芸術における概念に、”第四の壁”というものがある。舞台と観客のあいだに存在する概念的な壁をこのように呼ぶが、舞台を囲む三つの壁に対応するものとしてこの名がついた。通常、この壁は舞台/フィクションと観客/ノンフィクションを分断するものとして存在するが、演者が観客に語りかけるといった演出が行われるなどして、この壁が破られるときがある。交じり合うことが想定されていなかったふたつの世界が交じり合うことによって、観客は少なからず動揺させられる。

ギニョルは壁を打ち破るが、子供たちはあっさりとそれを受け入れる。これには年齢だけでなく、“人形劇”という形態も大きく関係しているかもしれない。

劇の途中、操り手の二人が人形を操作しながら観客の前に突然姿を現す場面があった。それまで熱っぽく観劇していた子供たちはその瞬間だけすっと押し黙り、静かな表情で彼らを見つめていた。彼らが姿を消し、人形だけがふたたび舞台に現れると、子供たちは先ほどの出来事などなかったかのようにまた熱心に人形たちに声をかけ始めた。彼らにとって、人形は人形なのである。フィクションとノンフィクションの境は、きっとまだない。

上演後、人形を操っていた男性と女性が姿を現すと、会場は大きな拍手に包まれた。男性のシャツは汗で少し濡れていた。子どもたち以上に大きく手を叩く、大人たちの姿が印象的であった。