フランスSV

フランス・ベルギーの食について
— ワイン・ビール・チョコレート

酒井友里
都市科学部 2年

フランスではワイン、ベルギーではビールが有名なことは、皆知っているだろう。フランスは、ワインを作るブドウを栽培するのに適した気候の条件や地理的条件を満たしている上、国がAOPやAOCで国内のワイン産業をバックアップしている。またベルギーは、1500を超えるというビールの種類の多さや、歴史、人々の習慣等の文化全体が評価され、2016年には同国の「ビールの製造・引用文化」がユネスコの無形文化財遺産に登録された。このような事実はあるが、実際、現地の人はどのようにワインやビールを楽しんでいるのだろうか。

リヨンのカヴィスト訪問

フランスでは、やはり、ワインが街中の至る所で見られる。だがその量と頻度は想像以上だった。街を歩けばすぐにワイナリーが見つかり、レストランに入ればメニューはワインだけで十数種類用意されていて、かなり多い割合で、どのテーブルにもワインが、しかもグラスではなく瓶で置かれていた。また真昼でも、レストランのテラス席で大勢の人がワインを楽しむ様子もよく見受けられた。

フランスのワイン事情を知るには、いろいろな角度がある。ブドウ栽培農家、ワイン醸造家、各種ワインを扱い販売するカヴィスト(ワインカーヴ経営者、ワインセラー)、レストランのソムリエなど、ワインは実に多様な業種から成り立っている事業であるが、今回はカヴィストに注目したい。

今回のSVでは、リヨン市の郊外、ラルブレルという小さい田舎町の中心部にある「ラ・プティット・カーヴ・ド・ロティソン(La petite cave de Rotisson)」という小さい店を訪れた。予定ではラルブレルの南隣にあるサンベルの町のAOCコトー・ド・リヨネーワイン組合のカーヴを訪れる予定であったが、この日はあいにく閉店であることが判明したので、急遽、アポなしでこのカヴィストを訪れることにした。

カヴィストはブドウ農家兼醸造者兼セラーであることが多いが、このどれに重きを置くかによってカーヴの立地が違ってくる。ブドウ栽培に重きを置く場合、たいてい自分の農園にカーヴを置いている。しかしロティソンは自作のブドウで造ったワインを販売してもいるが、このドメーヌ(ワイン地域)の他の優良なワインも売るこの地域の名カヴィストである。ワインカーヴでは、持っている農園で栽培されているブドウからできたワインが何種類もあり、カヴィストの女性の名前がつけられたワインもあった。

渡航前に、フランスでもビールの人気やアルコール消費量の減少を理由に、若者を中心にワインの消費量が減少しているというデータを見た。確かにビールを飲む人がいたりスーパーでもビールコーナーがあったりしたが、日本人の私から見ると、まだまだフランスには圧倒されるほどの根強いワイン文化があると感じさせられた。

フランスSV2019:

訪れたワインカーヴ。店主のナタリーさんと。夫のディディエさんはこの町のロティソンブドウ園農家。
la petite cave de Rotisson https://petitecaverotisson.fr

ベルギー・ビールとクルティウス

街には、ビールの名前の看板を掲げている店が多く存在した。また、知ってはいたけれど、本当に多様な種類のビールが見られた。成分の比率を変えたものから、チョコレートやワッフルの風味を加えたベルギーらしいものがあり、味だけでなく、種類の多様性もビールの楽しみ方のひとつなのだと改めて感じさせられた。今回のSVでは、リエージュ旧市街地にあるクルティウス(Curtius)という比較的新しい銘柄のビールの工房を見学した。このビール工場はリエージュ大学の学生が使われていない建物を改装して造ったところだそうで、若い世代のビールへの関心の高さ、ビール文化の浸透が感じられた。クルティウスはおもに3つの商品に力を入れている。「クルティウス」、「スマッシュ(SMASH)」、「ブラック」である。「クルティウス」はモルトブラウンビールで、シャンパン型の瓶に入れられているのが特徴である。SMASHとはSingle Malt and Single Hopの略でモルトとホップが1:1のIPA(インディアンぺールエール)である。「ブラック」はその名の通り焦がしたモルトから作られる苦みが強いながらもチョコレートフレーバーもあるスタウト(ベルギースタウト)ビールである。

フランスSV2019:

クルティウス工房での説明会。後方のタンクで一定期間醸造する。

中心部から中心部まで2時間ほどで行けるほどの2つの国の文化が、これほど大きく違っていることに衝撃を受けた。国によって、飲料一つとっても文化があることが興味深いと感じた。今後は北欧や熱帯地域の文化、またビールやワインの地域や国による違いについても、調査と実際の訪問も含め調べていきたい。

チョコレート王国・ベルギー — ダルシー工房見学

私はもともとチョコレートが好きなので、今回のSVでベルギーのチョコレートを食べるのを楽しみにしていた。ベルギーはチョコレートが有名だが、SVで訪問したダルシーの工房では工房の見学だけなく、チョコレートの歴史を音声付きで学べる博物館にも入れ、貴重な体験となった。見学レポートとともにベルギーチョコレートの歴史、特徴についても触れたい。

本題に入る前に、ベルギーのチョコレートの歴史について概説する。チョコレートの原料のカカオは中央アメリカ、メキシコ南部で栽培され、薬として使われていた。大航海時代にスペイン探検家が種子を持ち帰り、スペインの支配下であったベルギーに伝わったとされる。1885年ベルギー国王レオポルド二世がコンゴを植民化し、カカオのプランテーションが広まる。1912年にジャン・ノイハウスがプラリネという柔らかな詰め物入りの小粒のチョコレートを発明し、1915年ノイハウスの妻がバタロンというプラリネ専用のおしゃれな紙箱を発明したことをきっかけに、ベルギーチョコレートは新しいチョコレートの形としてブランド化していく。

ベルギーチョコレートは原料カカオを15-18ミクロンと極めて細かく粉砕して作られる。高品質のカカオ豆を使用し、他国よりもカカオ含有量が多いのが特徴である。また長い伝統から優れた技術を持った職人が多くのチョコレート専門店を構えている。1973年、今のEUとなる前のヨーロッパ共同体でチョコレートの定義が議論されたが、「カカオに混ぜ物をしてもチョコレートである」と主張するイギリスなどの自由派と「カカオ100%でなければチョコレートではない」とするベルギーなどの純粋派がぶつかる。結果、自由派が勝利するが、ベルギーでは今なお100%カカオバター以外はチョコレートと認めていない。また2007年から呼称が保護され、ベルギーチョコレートと呼べるのはベルギーで作られたものだけになる。

今回SVで訪問したのは、リエージュから鉄道で30分ほどのところにあるヴェルヴィエという町にある「ダルシー・チョコレート博物館(Musée du Chocolat Darcis)」。駅から徒歩15分ほどの工業団地の一角にあるチョコレート博物館兼ショップ・レストランである。工房も見学できる。博物館ではチョコレートの歴史を展示から体感しながら学ぶことができる。またチョコレートの原料、カカオの輸入経路、作り方、種類など豊富な展示があった。

博物館に入るとすぐ森のような展示があって、カカオが最初に使用され始めた起源が説明される。マヤ文明の遺品の器とカカオをすりつぶしたものが展示され、この時代薬用に使われていたことが説明される。大航海時代のエリアではカカオが世界に広がっていく様を表した世界地図や船の中を模した部屋などが展示されている。その次に高貴な人々が飲み物として甘くないチョコレートを嗜んでいたといということが説明される。次にベルギーでどのようにチョコレートが広まったのか、ノイハウスの説明やプラリネを作るための型番や実際のチョコレート専門店を模した展示がなされていた。

二階に上がるとチョコレートに関するクイズが展示されており、観覧者はクイズを楽しみながらチョコレートについての用語や知識を学べる仕掛けになっていた。またチョコレートで着飾ったファッションショーの様子やチョコレートで作られた芸術的なモニュメントなどが展示してあり、現代ではチョコレートが食べ物としてはもちろん、アートやファッションとしても楽しまれていることがわかり、チョコレートの新たな可能性が引き出されていることがうかがえた。

実際のカカオ豆やローストした状態のカカオ豆が展示されており、カカオを収穫する様子がビデオで流されていた。実際にローストした状態の豆を触ることができた。初めて触ったカカオはにおいがあまりしなかったが、思っていたよりも小さくごつごつとしていた。

チョコレート工房では実際の職人さんたちが働いている現場を見ることができ、大きな板だったチョコレートが正方形に刻まれていく様や型板に流し込まれていく様が見られた。壁にはカカオがチョコレートになるまでの説明がされ、映像でも製造過程が説明されていた。

体感型の博物館で展示映像だけでなく、実際ににおいをかいだり、チョコレートを食べたり、手でカカオを触ったりすることで五感すべてを使ってチョコレートを学ぶことができた。また職人の技術や工夫についても知ることができた。このような博物館があること自体もチョコレート産業を支え、ベルギー人のチョコレートへのこだわりと自負を感じられるものだと思う。カカオが広まったのはベルギーだけではないが、ベルギーがチョコレート大国と称されるのはこのようなベルギー人のチョコレート文化への強い思いも関係しているのではないかと思った。

フランスSV2019:

ダルシー・チョコレート博物館の一室(カカオ豆の展示室)。
カカオ豆に直接触れ、においをかぐことができる。