オーストリアSV

イメージとアピール ウィーンの戦略
—クリスマスマーケットの事例を通して— (1)

西尾郁美
人間文化課程 2年

はじめに

観光立国であるオーストリアの観光と、日本の観光の違いとは一体何だろうか。日本には特有の自然や文化、食だけでなく、整備された交通網や宿泊施設、治安面での安心感もあり、決して観光資源が乏しいわけでもない。しかし現状日本は観光後進国である。今の日本の観光に足りないものは何だろうか、というのが私の今回の研究の出発点である。

最近5年ほどで、本場ドイツを真似たクリスマスマーケットが東京や横浜、大阪で複数開催されている。ヨーロッパから遠く離れ、キリスト教国家でもない日本において、クリスマスマーケットが開催されているというのはとても興味深い。「その国・地域に特有の文化を観光資源として他国にアピールする」ためにオーストリアはどんな努力をしているのか、ということを今回は考えていく。SVという短い期間での滞在と調査のため、今回はクリスマスマーケットという事例に絞って調査をした。

SVの前に

実際にウィーンに行く前に、六本木ヒルズと日比谷公園で開催されたクリスマスマーケットでフィールドワークを行った。どちらのマーケットも、広場のような大きな場所でたくさんの出店や、座って飲食できるスペースを確保していた。売っている飲食物はグリューワインやプレッツェルなど、ヨーロッパを意識したものが主に見られた。

六本木や日比谷という、都内でも栄えたエリアで開催されており、来場している人たちもちょっとした観光気分で来ている様子だった。というのも、この場所に来慣れた様子や、生活に必要なものを買いに来ている様子は見られなかったからである。これらのクリスマスマーケットが2週間程度しか開催されない限定イベント的な要素があったため、このマーケットに来ること自体が目的とされているのではないかと考えた。

こうしたフィールドワークと、これまで日本で生活してきて形成された“観光”に対するイメージから、ウィーンにおいてもクリスマスマーケット自体が観光地として推し出されていて、観光客で溢れかえっているのではないか、という仮説を立ててSVへ出発した。