オーストリアSV

カフェに垣間見えるジェンダー意識

今井莉穂
人間文化課程 2年

はじめに

今回、私はオーストリアの知られざる無形文化遺産の一つである「カフェハウス」を中心とした、オーストリアのカフェに注目し、約10種類のカフェにフィールドワークへ行った。渡航前の事前調査を通じて、オーストリアのカフェはお店の規模やメニューの種類によって「カフェレストラン・カフェハウス・カフェコンディトライ」の三種類に区分があることは、あらかじめ情報として得ていた。しかし、実際に様々なカフェを訪れる中で予想とは異なり、別の違いもあることを発見した。以下ではその発見について記していく。

ウィーンのカフェ文化

まず、ウィーンのカフェ文化について簡単に紹介しよう。コートかけや新聞が置いてあり、コーヒーを頼むとお水がついてくる(なんと、ウィーン以外の街では水が貴重なため、普通「お水」は別料金である)など、今でも伝統的なウィーンのカフェハウスのスタイルは受け継がれていた。また、カフェで出されるコーヒーの種類は日本よりもはるかに多い。日本では泡のあるコーヒーといえばカフェラテかカプチーノ程度であろう。しかし、ウィーンではメランジェやアインシュペンナーなどコーヒーの濃さやミルクの割合によってもコーヒーの種類が変わるほどメニューが豊富である。

コーヒーの起源をめぐっては、1683年にトルコ軍がコーヒー豆をオーストリアにもたらしたという説がある。その際には、「黒いスープ」と言われ、苦くてまずい飲み物という印象が強かったという。しかしその時代にたまたま砂糖やミルクも流入したことにより、様々なアレンジが加えられ、今のような幅広いメニューが生まれたことが考えられる。

オーストリアSV2015:銀色のプレートの上に水が!

銀色のプレートの上に水が!

オーストリアSV2015:どのカフェにも新聞が置かれている

どのカフェにも新聞が置かれている

給仕から見るウィーンのカフェ

それではここからは、オーストリアのカフェでキーパーソンとなる「給仕」に着目していこう。

無形文化遺産にも登録され、オーストリアの人々がこよなく愛すカフェハウスでは、男性の給仕さんが辺りを見渡し、必要とあればお客さんのもとへ駆け寄る。表にいるスタッフを見ると、一切女性の店員さんがいる気配がなかった。またカフェレストランはカフェハウスの規模を大きくしたイメージで、ここでも男性の給仕さんが仕切っている。一方で、カフェコンディトライでは、男性の給仕はそのお店の支配人的位置づけで、実際に注文を取り会計をするのは女性の給仕であるという違いがある。

オーストリアSV2015:カフェハウスの男性の給仕さん

カフェハウスの男性の給仕さん

オーストリアSV2015:カフェコンディトライの女性の給仕さん

カフェコンディトライの女性の給仕さん

これらの特徴から、カフェにはジェンダー的要素が隠れているのではないかと考察できる。カフェハウスやカフェレストランでは、給仕が男性ということもあり、男性的イメージが強い。一方で、カフェコンディトライは、以前カフェコンディトライはケーキを売るお菓子屋さんだったということもあり、甘くかわいらしいものを想像することができる上に女性の給仕が働いているという点において、女性的なイメージを強く受けた。

ウィーンの中のジェンダー意識

オーストリアSV2015:ウィーンの信号機

ウィーンの信号機

このように私が考えるのにも他に訳がある。
たとえば、ウィーンのイメージとしてはやはり音楽が大きいであろう。私は今回のSVで、ウィーン楽友協会資料館の副館長であるイングリード・フックス氏にお話を伺う機会があり、女性の弾くことのできる楽器が限られていたということを知った。チェロなどの大きな楽器で奏でる際には足を大きく開く体勢になり美しくないということを理由に、女性的魅力が一番輝いているピアノとバイオリンのみが許されていたという。その性差による伝統はヨーロッパの中でもとりわけウィーンで根強く、最後まで守られていたというから驚きである。

またオーストリアで町中を見渡すと、日本ではお目にかかれない信号機の表示を見ることができる。日本では、信号機の中に人が描かれていても一人であったり、二人であったりするだけで、性別の違いを深く考慮しているようなものは見られない。しかし、オーストリアにある信号機の表示には、男性同士の表示であったり、男女のものであったり、女性同士のものもあったりと、そのバリエーションは幅広い。これには、色々なカップルの形があることを考慮して作られているという。

このように音楽の話や信号機の表示を見てみると、オーストリアではとりわけ性差に意識が集中していることが分かる。したがって、カフェに見られる差異を、給仕の性差に着目して分類することもできるのではないかと考える。

最後に

当初、ウィーンは音楽の街という印象が強く、その他の歴史や文化については何も知らなかった。今回このテーマを通して自分の足で多くのカフェを巡ることで、ウィーンの人々の生活にはカフェが欠かせない存在であることを知ることができた。歳をとっても夫婦で楽しそうに会話を弾ませ、新聞を読んで寛ぐ姿を見て、ウィーンの人々の生活を垣間見ることができたように思う。

ウィーンのカフェは昔から情報交換、交流を通して政治的かつ生活の一部として利用されていた。その名残を残しつつ、現代風なアレンジを加えながら、根本的な部分は現代にも色濃く反映しているのを見て、伝統的な文化を伝承していくことの大切さを学ぶことができ、さらには新たにウィーンのカフェに潜むジェンダー意識についても触れるきっかけとなった。これからもウィーンのカフェ文化が引き継がれていくことを願うばかりである。