ロンドンSV

ロンドンSVを振り返って

飛田竜太朗
人間文化課程

ロンドンでのスタディーツアーの報告を締めくくる前に、私たちが1週間お世話になった民泊のあるロンドン東部、ストラトフォードのことについて触れておきたい。

ロンドン入りした初日、写真に示したようなタワーマンションが次々と建設されている光景を目にしたとき、この空にそびえ立つように、何本も並んだクレーンが何かの表象に思えてならなかった。そして翌日、LSEでの講義の中でメイス先生が不動産価格の上昇や外国の資本による投機の過熱について触れた時に、クレーンはそれらを象徴しているのだとわかった。

ロンドンSV2015:ストラトフォード駅前

ストラトフォード駅前

そして6日、ストラトフォードを散策した。この地区は、2012年のロンドン五輪を契機に開発がスタートした地区であるが、オリンピックを終えてもなお開発がすすめられている。歩きながら考えていたのは東京オリンピック後のことである。競技施設が建設されるのはもちろん、それが集中する湾岸地域では何棟もの新しいタワーマンションの建設計画があるようだ。さらにマンションについても、メイス先生の言う海外資本による不動産投機は、日本にも「爆買い」のような形で進行している。ロンドンと東京は状況が似ているところがあるが、一方でオリンピック後の取り組みは4年後、5年後の東京が向き合わねばならないテーマである。参考にすべきところが多いと感じた。

ロンドンSV2015:オリンピックパークから見えるクレーン

オリンピックパークから見えるクレーン

ブリックストンではエスニックマーケットを見学した。この地区にガード下のテナント料収入の面や、あるいは店を維持していく資金の面の問題で、所得がそう高くない住民向けの日用品を扱う商店が減り、日本食レストランや値段もそれなりに高いおしゃれなパン屋、カフェのような店が増えてきている、ということには先に触れた。決して観光地とは思えないブリックストンのような地区では、店の傾向の変化は住民の傾向の変化である。もともと住んでいた人に代わり、おそらくはより経済力のある層が新しく住み始めているのだろう。ストラトフォードのダイナミックな開発を目にした後だけに、ロンドン全体の不動産価格の高騰がこういったエスニックマーケットにじわりじわりと影響しているということを意識づけられたように思う。

もちろん今回のスタディーツアーの目的は、ロンドンにおいてエスニックマイノリティの人々が現在どのように暮らしているのか、自分たちが横浜で調査してきたことと比較しながら観察をすることであった。だが、私がいちょう団地に行って調査した際の「新規に来日した人々に日本語の指導含めどういった活動をしているのか」という課題は、私たちがロンドン滞在中に訪ねた地区においてはあまり見えてはこなかったように思う。いちょう団地では学校にターゲットを絞って調査していたが、それと比較しながら見学したバラ地区の学校でもそのような面は見られなかった。予想していたよりもはるかに統合が進んでいたように思うし、日本でみられたような「外国人だからこその困難」のようなものに直面しているということは見られなかった。

その一方で、住民階層の入れ替わり―ロンドン中心部の不動産の高騰を受けてより所得の高い住民が入れ替わる形で住み始めているような事態が、黒人移民の多いブリックストンで起きていることは偶然ではないとも思う。言葉の壁といった表向きにすぐにわかる部分の問題ではない、というところに、エスニックマイノリティの人々を取り巻く問題が複雑で根が深いものだと思わざるを得なかった。

今回のSVは、その準備のための横浜での調査含め、私のこの先のことに大きなヒントを与えたものだと感じている。観光ツアーではいかないような場所を訪ね、いたるところに考えるきっかけが転がっているような場所を歩いた結果、私の中で将来のビジョンがより明確になったと確信できた。そういった意味で、「このSVではたくさんの収穫があった」と胸を張って言えると思う。

ロンドンSV2015:ロンドンSVを振り返って 写真3

最後に、このSVがとても有意義なものになったのは、たくさんの方々の協力なしにはありえませんでした。ロンドンの様々な表情を見せていただいたメイス先生はじめLSEの方々、授業中にもかかわらず学校内を見学・案内までしていただいたSt Saviour's & St Olave's Schoolの先生方や生徒のみなさん、およびモスクを見学し礼拝の時間に立ち会うという貴重な体験を提供していただいたモスクの方々には大変感謝しております。同時に、1週間の滞在が充実していたのは、素敵な家を貸していただいた家主のRozaさんのおかげでもあります。私の不十分な英語力でもわかるように丁寧に説明していただいたこと、本当にありがたく思っています。そして、見学場所やそこの人々とコンタクトをとり、このスタディーツアーをコーディネートしていただいた齊藤先生のご尽力にも感謝いたします。私たちに出来るお返しはこの経験を存分に今後に生かすことだと思いますので、これからも存分に学びたいと思います。