コルシカ島は沿岸部を中心に、ブドウ栽培がおこなわれるワインの産地でもある。独自の品種を使用しており、それゆえ良質なワインができる。品種はアジャクシオ近辺の黒ブドウで作る赤ワインまたはロゼワインが作られるシャッカレール種、北部ネッビオ地方中心に栽培される赤みがかった黒ブドウで作られるニェルッチュ種、白ワインとなるベルメンティーヌ種の3種類からなっている。
今回私たちが訪れたパトリモニオ村はコルシカ島北部にあるカップコルス(Cap Corse)の根元にある地方である。ここはコルシカの中でも有名なワインの産地であり、良質なワインに与えられるフランスのAOC(原産地呼称統制)を保持している。
AOCパトリモニオは、この村を中心に、隣接する6つの町村にまたがる400ヘクタールほどの面積で、AOCとしてはかなり小さい区域である。
今回のツアーで最初に滞在した宿は、ドメーヌ(Domaine、農園)「モンテマーニ(Montemagni)」の所有する施設である。この村には数軒宿泊施設があるが、いずれもワイン農家がブドウ栽培とワイン醸造との兼業でホテルを経営しており、宿泊施設にはワインの醸造風景を見学でき、試飲できる部屋も併設されている。村の入り口には大規模なワイン直売店も置かれるなど、ワインで持っている村というイメージであった。
パトリモニオでは黒ブドウのニェルッチュ種の発祥の地であり、石灰質土壌の畑に植えられている。この種は長期熟成型でコルシカを代表する赤ワインである。パトリモニオはAOC区域がフランスでも最小クラスなのには理由がある。一つはパトリモニオ周辺がコルシカの中でも肥沃な石灰質土壌に恵まれている点である。切りたった崖からはクリーム色をした山肌が見えるが、これらはすべて石灰質を多く含んだ土である。それから地形である。パトリモニオのブドウ農園は、地中海から5キロほどの内陸部にあり、そこは、標高200mほどの「切りたった崖」と、カップコルス半島を南北に貫く比較的高い(最高峰は1300mを超える)山脈の間に挟まれた南北に細長い盆地の底の部分に位置している。一方、宿泊施設などがある村の中心部は、盆地の底よりもやや高い、カップコルス山脈の山麓に立地している。村落から盆地の底までは「扇状地」となっているのだ。ブドウの大敵である降雨が少ない一方で、カップコルス山脈は比較的雨が多く、扇状地の地下にはこの山脈からの雨水が大量に含んでいる。この自然条件がパトリモニオに独特の景観と風土をもたらしているのである。
また、パトリモニオでは赤、ロゼ、白ワインの他、ミュスカ(Muscat)と呼ばれるマスカットの甘口ワインがある。このワインは主に食前酒として飲まれ、氷を入れて飲んでも良い。
ミュスカもAOCワインであり、「ミュスカ・ド・カップコルス」という名前で売られている。パトリモニオ村は、パトリモニオとミュスカの2つのAOCワインを産出するフランスでも有数の村である。