フランスSV

コルシカのチーズ ブロッチュ

森下実里
人間文化課程 1年

コルシカ島のチーズの中で、ブロッチュというものがある。あまり聞きなれない単語ではないだろうか。ブロッチュというのは、羊や山羊の乳を原料として作られるフレッシュまたは熟成チーズである。一般に「ブロッチュ」として売られているチーズは前者であり、熟成チーズは「パッス」と呼ばれ、別の名前で売られることが多い。今回訪問したのは、島中央部ヴェナケ地方、サンピエトロ村の羊飼いのチェザリさんの工房(画像)である。彼はフレッシュチーズのブロッチュと、「ヴェナコ」という熟成チーズを作っている。

写真1 [France SV 2015]

私たちはその訪問先で、ブロッチュ作りを見学させていただいた。小屋のような場所で、チェザリさんはチーズ作りに勤しんでいた。その作業場の中央に大きな鍋があり、そこには白く牛乳のような液体がたっぷりと入っていた。これが乳清(ホエー)である。チーズの元となるものだ。それを熱し、棒のようなものでかき混ぜながら温めていた。時間が経つと、表面のほうに白い膜のような固まっているものができてくる。これを成功させるにはやはり、作り手の長年培われた経験や感覚が重要である。いとも簡単そうにやっているように見えたが、今まで様々な失敗や成功を経験して、つかんできた感覚なのだなと感じた。そして、鍋の中にできた固まったものをおたまですくいとり、手のひらより少し大きいくらいの籠に入れていた。見た目は豆腐のようで、やわらかくプルプルとしていた。

実際に食べてもいいと言っていただいたので口に含んでみると、やはり豆腐のような食感で、臭みがなくほのかな塩味でとても美味しかった。その籠に入れられた白いチーズたちは台の上に並べられていた。まだそれには水気があるため、その籠から余分な液体は流れ出ていた。その流れ出た液体も集められ、活用されていた。余すことなく使い無駄にしない精神は、日本と似ているなと感じた。その後、籠に入れられていたチーズは、ひっくり返される。チェザリさんがやっていると簡単そうに見えたが、実際にひっくり返すのを体験してみると、なかなか難しく思うようにできなかった。これも経験がものをいうのだと感じた。こうして作られるチーズは、鍋にたくさん入っている乳清から作られるにもかかわらず、一度にできる数は多くない。手作りだからこそ数は少ないけれど、一つ一つが貴重となってくるのだなと感じた。ここで作られていたのはフレッシュなものだけではない。奥の部屋に進むと、チーズがたくさん並べられ保管されている場所があった。そこに置いてあったチーズは「パッス」、つまり乳清を取り除いた脂分で、それは熟成され固くなり、強烈な臭いを放っていた。そのためその部屋にずっといることは困難であった。前に述べた真っ白く臭みのないフレッシュチーズとは、こんなにも異なるのかと衝撃を受けた。

チーズ作り見学は初めてだったが、たくさん驚きや発見があった。ブロッチュは、コルシカの大自然とその土地の人々に支えられ、今もなお存在し続けているのだなと感じた。