韓国SV

日韓両国における言語教育事情
―歴史的背景から考える―

今井莉穂
人間文化課程 2年

言語教育班の研究

言語教育班は、それぞれが「韓国における日本語教育」に興味を持っていたので、日韓の言語教育の違いをテーマにして研究を行った。実際に独立記念館、烏頭山(オドゥサン)統一展望台、世宗大学、日本語学習塾に足を運び、歴史的背景からみた日本と韓国の言語教育の違い、さらに現在はどのような事象が言語学習者に影響を及ぼすのかについて知ることができた。まず初めに、日本における韓国語学習の経緯と韓国における日本語学習の歴史を比較し、歴史認識に対する独自の考えを交えて述べていく。それ以降では、日本の留学生受け入れ体制と韓国人の留学意識、日韓の学生の言語学習調査に関して言及していくこととする。

韓国における日本語教育

1906年普通学校令が発布され、その後1910年から1945年までの35年間日本の植民地支配を受けていた韓国では「日本語の国語教育」が強制的に行われていた。私達はこの35年の長さをどのように受け止めているだろうか。独立記念館を見学することで、日本の教科書では数行で語られる歴史の裏に、多くの人々の悲痛な叫びと独立へ向けた強い思いが感じられた。「日本人から見ると、独立記念館での記述は耳が痛い内容なのかもしれない。日本人の中には、韓国が社会主義国にならずに済んだのは日本のおかげだと発言する人もいる。しかし、韓国人の中には韓国と北朝鮮からすれば分裂してしまったのは日本のせいだと考える人もいる。そのような韓国人視点での歴史の捉え方にも目を向けてほしい。」というガイドの方の言葉が未だに脳裏に焼き付いて離れない。この日本の植民地支配は他国が植民地支配するのとは違い、多くの自由を奪い、多数の韓国人のアイデンティティの忘却さえ促す行為であったということを理解するきっかけとなった。

写真1 [Korea SV2015] 写真2 [Korea SV2015]

また烏頭山統一展望台では、韓国側から北朝鮮側を見ることができた。朝鮮半島が今も分断された状態で、なかなか歩み寄れない原因が日本であるとされるのならば、その景色には考えさせられるものがある。その後1945年からの3年間、国語浄化運動によって一挙に日本語学習者がいなくなる。1964年の東京オリンピックを機に、その前後で日韓の関係性に変化が生じる。1961年、外国語としての日本語教育が大学という公の場で始まった。日本の目覚ましい経済発展に目を向けた韓国は日本語を学習する人を増やし、日本の技術を手に入れようと考え始める。その影響で日本語学習者は増加する。その後も反日感情から学習者が減少したり、韓国の経済発展が視覚化され活発な日韓交流のために日本語学習者が増加したりと、政治経済の影響は常に日本語教育に表れる。1983年中曽根内閣が「留学生受け入れ10万人計画」を行うと、一気に韓国で日本語ブームが巻き起こった。その後も様々な歴史的背景に絡んで日本語学習者が増減する。これらの事実から考えて、韓国における日本語学習は歴史的問題を始め、日韓双方の政治・経済の問題に左右されることが分かる。

写真3 [Korea SV2015] 写真4 [Korea SV2015]

日本における韓国語教育

写真5 [Korea SV2015]

日本では、1925年創立の天理外国語学校・朝鮮語部を引き継ぐ形で、1950年天理大学の文学部に初めて朝鮮語学科が設置された。東京オリンピックが開催されたころ、韓国語を学べる大学は8校とマイナーな存在であった。その後韓国の目覚ましい発展により、日本人は韓国に意識を向けるようになった。NHKでは「アンニョンハシムニカハングル講座」が放送されるようになり、韓国語が学べる外国語の対象の一つとなっていった。さらに日本人の韓国への興味を倍増させた出来事が大きく3つある。まず東方神起や少女時代を始めとするK-POPの上陸、韓流ドラマの流入、日韓ワールドカップの共同開催である。韓流ドラマに関しては日本のおば様世代がはまった冬のソナタが挙げられる。この年代の方々は日本のコリアンタウンである新大久保に足を伸ばし、韓流ブームを掻き立てた。今回、新大久保の文化センターアリランにてインタビュー調査を行った。センター長によると、歴史認識問題に関して反韓感情を持ち始めたころ、その歴史の当事者世代である韓流ファンの数は減少したという。それにより、新大久保を訪れていた客数も減少した。このように街として韓国を押し出していたエリアにも歴史・政治の問題が絡んでいることが分かる。しかし、日本における全体の韓国語学習者は減少しなかった。それは、年代層に変化はあるものの、K-POPや韓流ドラマなどの韓国文化を愛する人々は定着していったからである。もちろん歴史や政治・経済の問題にも左右されることはあるが、韓国語学習者を動かすのは韓国の文化面である。

韓国SV全体を通して

韓国における日本語教育と日本における韓国語教育は歴史的長さが大幅に異なる。それ故、一概に比較することはできない。しかし、共通点としてお互いの国がオリンピックを始めそれぞれの国の政治的・経済的影響を受けながら、それに合わせる形でその学習者が変化することは間違いない。その度合いは韓国の方が強く、日本はその影響よりも韓国の文化面の影響を受けているという違いがあることが分かった。今回、通常韓国の観光をするだけでは気付くことのできないコアな部分に目を向けることができた。歴史は語られる際にあらゆる事実が取捨選択される。日本と韓国、どちらの語りが正しいとは言い切れない。しかし、現代を生きる私達はその両者の主張に目を向けることが必要なのだと思う。そうして初めて、お互いの文化や歴史を認め合い、よりよい共生をすることができるのだと思う。以上のような両国の歴史的背景をふまえ、次項では、現代における日本留学の実態を「留学生30万人計画」に着目して考える。