韓国SV

韓国SVから考える「留学生30万人計画」の
はたらきと課題

清水夏咲
経済学部 2年
写真1:MorningEduソウル校 [Korea SV2015]

MorningEduソウル校

2008年、文部科学省は「グローバル戦略」の一環として、留学生の総数を2020年までに30万人にする「留学生30万人計画」を発表し、大学等のグローバル化推進、卒業後の就職支援など受け入れ体制の整備を進めている。2014年現在、日本には18万人を超える留学生がいるが、その中でも韓国からの留学生は、中国、ベトナムに次いで三番目に多い15,777人である。ここでは、「留学生30万人計画」のはたらきと課題を、日本の大学進学のための学習の実態および日本への留学希望者数の推移の側面から、全留学生の一定数を占める韓国におけるSVで訪れた、MorningEduという日本国内の大学入試のための専門学院でのインタビューをもとに考察を進める。

韓国における日本の大学進学のための学習の実態

日本の大学に進学するために、韓国の学生はどのような学習をするのか。日本には、外国人留学生が日本の大学入学を希望する際に実施する「日本留学試験」という試験が存在する。これは「留学生30万人計画」の前身である「留学生10万人計画」の一環として策定された、留学希望者が自国に居ながら受けることが出来る日本留学のための試験で、2002年より年2回、日本国内15都市、国外約10都市で実施されている。日本留学試験の出題科目は、日本語、理科、総合科目及び数学であるが、日本の大学への留学を希望する学生は、各大学の選考と併せて日本留学試験のうち各大学が指定する教科を受験する必要がある。

MorningEduは、前記の通り日本への留学を希望する生徒に日本の大学進学のための受験指導を行っている専門学院であり、日本留学試験および各大学での試験対策を行っている。受講者は高校三年生を中心とした学生が多く、そのほとんどが学部への入学を希望しているという。MorningEduでは、日本の大学への進学を希望するのは、語学の勉強を現地で行うためではなく、日本の企業に就職するためだという受講者が多いそうだ。校長の話によると、以前は日本に留学した学生の約8割が韓国に戻って就職をしていたが、現在は日系企業への就職を希望する学生が約8割であるという。これは、韓国国内での厳しい就職難という背景もあり、「留学生10万人計画」および「留学生30万人計画」によって日本企業が留学生の受け入れを積極的に行い始めた影響が色濃く出ていると言えるだろう。

日本への留学生希望者数の変遷

写真2:MorningEduでの授業風景 [Korea SV2015]

MorningEduでの授業風景

MorningEduによると、2004年にMorningEduが設立されて以来、留学希望者数を左右するのは政治的な要因よりむしろ健康面への懸念だという。校長の話によると、設立以降、政治的、経済的要因に関係なく増加していた受講者数は2010年に250人を突破したが、2011年3月に発生した福島第一原子力発電所事故によって健康面への影響を危惧し、受講者は50人程度まで落ち込んだと言う。本当に、原子力発電所事故による健康面への危惧は日本への留学希望者数に大きな影響を与えたのだろうか。留学希望者は留学前に受験する必要がある日本留学試験の受験者数に比例するのではないか、という観点からその受験者数の推移を検証した。日本学生支援機構のデータによると、下図の通り、日本留学試験受験者数は福島第一原子力発電所事故の起きた2011年を境に急落している。2014年から徐々に回復してきている数値も、事故から一定時間が経過したことにより安全面への不安が薄らいだ影響であると考えることができるだろう。このことから、韓国に限らず、国際的に、健康面への危惧による日本への留学希望者への影響は大きいということがわかる。法務省によると、震災翌日から4月1日までの21日間に日本を出国した外国人は約47万人であり、そのうち7万人近くが留学生だったという。冒頭にも書いた通り、現在日本への留学生は18万人程度である。今後、健康面への懸念を払拭し、日本への留学希望者数を増加させられるかどうかによって、計画達成の明暗は分かれるだろう。

写真2:MorningEduでの授業風景 [Korea SV2015]

日本留学試験受験者数の推移
(日本学生支援機構 http://www.jasso.go.jp/eju/examinees.html を参考に作成)

韓国SVを通して

日本における留学生数のおよそ10%を韓国からの留学生が占めている現在、韓国の学生の動向は日本における留学希望者全体の動向をある程度指し示していると言えるだろう。今回、その韓国におけるSVにおいて、日本の大学進学を目指す学生の留学勉強の現場に立ち会い、また、校長にお話を聞いた。それによって、これから日本への留学を考えている潜在的な留学生の状況を認識するとともに、日本の今後の留学生受け入れ政策の課題について考えるきっかけにもなった。健康面に代表される日本留学への不安要素をなくすとともに、現在の韓国人留学生が日本に来る動機の多くを占めている日本の企業への就職支援を強化するなどといった、国ごとのニーズに寄り添った留学の提供を行うことが、「留学生30万人計画」達成のカギとなると私は考える。