韓国SV

白い布VS即戦力 -日韓における就職の特徴-

田島ちえみ
教育人間科学部人間文化課程 2年

はじめに

世宗大学の留学生から、「韓国では就活の際に、4年間で大学を卒業しているかどうかは、あまり重要なことではない」という興味深い話を耳にした。韓国の大学生は留年することを恐れず、海外へ留学する割合が非常に高いという。一方、日本では大学を4年間で卒業した新卒者が就活では圧倒的に有利であるという見方が一般的だ。そのため、留年してまでも留学する大学生は少ない。このような就活に対する大学生の認識は、実際のところ、企業側の考えと一致しているのかどうかを調査した。2015年9月に韓国を訪問した際にインタビューした韓国の銀行幹部、ソウルに拠点を置く日系企業幹部(半導体関連、銀行、商社)。さらに日本でインタビューを行った銀行幹部への聞き取り調査結果と関連文献や記事をもとに報告する。

写真1:ソウルのビジネス街の様子 [Korea SV2015]

ソウルのビジネス街の様子

韓国企業

韓国では若者の就職難と失業が何年も前から問題になっている。報道をみると、2015年もこの状況は変わらないようだ。韓国でのインタビューを通じ、韓国社会には近年、「7放世代」という言葉がとりざたされていると知った。「7放世代」とは、若者が「恋愛」「結婚」「出産」「マイホーム」「人間関係」「夢」「希望」をあきらめる傾向にあるという意味だという。景気が厳しいために、若者に経済的な余裕がないという背景があるようだ。

現在韓国では文系よりも理系の学生の就職率の方が良いという特徴がみられる。韓国教育開発院が2月初めに公開した「2014年専攻別大学生就職率」によると、工学系を専攻した卒業生の就職率は65.6%。人文社会系を専攻した学生の就職率は45.5%で、工学系の方が20%ポイントも高かった1

また、韓国企業では近年、「定期採用から随時採用」、「新卒者採用から中途採用」という傾向が現れるようになってきている。ここで注目したいのが、韓国企業は日本企業に比べて採用時の年齢の幅が広いことである。その理由として、「男性は兵役に行く必要がある」、「留学が盛んに行われている」ということが挙げられる。韓国のある銀行によると、韓国企業は約25〜29歳の新卒者を採用することも珍しくない。また男性の場合は、兵役経験が日本企業での社内育成に相当するとされ、韓国企業では自ら多くの経験を積んできた人材を求めていることがうかがえた。日本企業では、新卒採用年齢が22〜25歳で、若いうちに社内育成を目指すのが一般的で、韓国企業とは状況が大きく異なる。

ソウルに拠点を置く日系企業

半導体装置の設置・メンテナンスを手掛ける日系企業「Canon Semiconductor Engineering Korea」(ソウル)の中島卓実社長によると、平成27年度の募集定員30人(韓国人)に対し、約300人もの応募がきたという。日系企業が韓国人に人気がある理由としては、その企業ブランドだけでなく、留学などを通じ身に着けた日本語能力が生かせるためとみられる。

韓国では、随時行われる中途採用が一般的である。社内育成を省くことが出来るよう、募集する部署に必要な技能や知識を持った人材が求められ、即戦力となる人材が理想とされるという。一方、日系企業の特徴としては、採用時に、言語能力が重要視されることが多い。日系商社「韓国丸紅」や上記「Canon Semiconductor Engineering Korea」では、社内公用語が日本語のため、日本語能力試験JLPT 1級以上のレベルを有する韓国人を求めているという。在ソウルのある日系銀行では、社内公用語が英語のため、TOEIC900点相当の語学力を持つ人材を求めているという。業種によって求められる言語は違うが、ソウルにある日系企業では、韓国語以外の言語能力が重要であることが分かった。

日本企業

2015年春に卒業した日本の大学生の就職率は96.7%と、過去最高だったリーマン・ショック前の2008年春(96.9%)に次ぐ高水準だった2。現在、日本では大学生の就活戦線は売り手市場である。一方で、大企業の採用スケジュールが頻繁に変更されるなど、多くの大学生が混乱に陥る問題も生じている。

日本企業では、新卒者を新入社員として採用するのが一般的である。日本のある銀行幹部への聞き取りや厚生労働省の調査によると、「社員の年齢構成を維持できる」、「他社の風習などに染まっていないフレッシュな人材を確保できる」、「定期的に一定数の人材を確保できる」3ということが、新卒採用を重視する理由として挙げられる。中でも特に注目したいのが、新卒者の社内育成という側面だ。日本企業には一般的に、「白い布は何色にでも染められるが、一度違う色に染まった布を染め変えるのは容易ではない」という「白い布」仮説が存在する。ここでの「白い布」は新卒者を指す。企業理念通りに社員を育成出来るということは、企業側にとって好都合であるため、新卒者を採用する傾向は未だに根強いようだ。

まとめ

写真2:企業訪問を終えての記念撮影 [Korea SV2015]

企業訪問を終えての記念撮影

社内育成を重視し、新卒者採用に重点を置く傾向にある日本企業に対し、韓国企業は新卒者にこだわらず、即戦力となる有能な中途者を積極的に受け入れるなど、採用年齢の幅が広いという特徴があることがわかった。「日本では大学を4年間で卒業した新卒者が就活で優先され、韓国では年齢に関係なく、即戦力となるような人材が求められている」という日韓それぞれの大学生の認識について、企業サイドでも同様の実態を確認できた。また、ソウルに拠点を置く日系企業はどちらかというと韓国企業に近い採用の特徴を持っていることも知った。

注釈
参考文献
  • 永野仁『大学生の就職と採用』、中央経済社、2004年
  • ウージョンウォン『韓国の経営と労働』、日本経済評論社、2010年
  • ハンヒヨング『韓国企業経営の実態』、東洋経済新報社、1988年
  • 日本労働協会『わが国海外進出企業の労働問題―韓国―』、廣済堂印刷株式会社、1975年