今回の韓国SVの調査では、韓国企業が採用時に、学生の留学経験がどう評価されるのかという点に焦点の1つを置いた。これをテーマにしたのは韓国企業と日本企業の留学経験についての認識の違いに興味を持ったことだった。私自身が日本での就職を希望していることもあり、留学経験を企業がどう評価するのか知りたいと考えたのがきっかけだ。
日本と韓国では、学生の留学経験について受け止め方が大きく異なる。韓国では積極的に海外留学し、帰国後、就職などでフィードバックする学生が多い。今回のSVで韓国滞在中に行ったインタビューでも、ソウルにある韓国企業幹部は「留学という経験は語学の面だけではなく、海外で一人暮らす中で起こる様々な困難を乗り切る力も身に付く」「海外で暮らすということは、その国の言語だけではなく、その国の文化について学ぶことにもなる」と積極評価した。
また、ソウルにある日系企業(銀行)幹部は「英語だけでなく、それ以外の第二外国語が話せることは強みだ」と話したほか、ソウルを拠点とする別の日系商社「韓国丸紅」幹部も「留学中には様々な苦労を経験する。その苦労から何か得られるものがある」と留学で得られる効用について積極的に評価し、英語や日本語など外国語習得にも期待を示した。
このように韓国企業やソウルにある日系企業では留学を肯定的に受け止めていた。一方、日本企業は韓国企業に比べ、留学にあまり肯定的なイメージを示していない。インタビューである日本企業(銀行)の幹部は「学生のうちに留学をしても、あまり得られることは少ない」と留学に大きな期待をしていなかった。
ソウルビジネス街
日本には「留学生30万人計画」もあり、沢山の留学生が来日している。だが、日本での就職を希望するにも関わらず、参考文献によると、実際に就職できているのは半数又はそれ以下とされる。就職が困難である原因は大きく分けて3つがあると考えられる。一つは日本語力、2つ目は日本の複雑な就職活動の仕組み、3つ目は企業側採用の問題である。
留学生が就職する際にはBJT(Business Japanese Test)が求められる。これは外国人向けのビジネスの場で必要となる日本語能力試験である。しかし、BJTを持っている留学生は多くはない。BJTは普段は使用しない単語や敬語の能力が必要となっているが、BJTへの取り組み方を教えてくれる機会は少なく、自力で学習しなければいけないのが実態だ。
次が留学生が日本の就職活動の仕組みに不慣れな問題がある。日本の就職活動は説明会、エントリーシート、面接、と手順をおって行われる。外国人特別採用枠を設けている企業も増えてはいるが依然として少なく、日本人学生に比べ不利である。さらに、留学生に対する就職活動支援もいまだに万全とは言えない。また、留学生にとって不利なのは情報量や情報入手ルートの少なさである。日本の就職活動は情報戦の側面がある。日本人学生は、大学のほか、親、家族、親戚など情報源が多いが、留学生は沢山の情報を得ることが難しい。実際に私が行ったインタビューでも、フランスからの女子留学生も、日本で就職活動をする中で困難だった点として、日本での知り合いが少なく、OB、OG訪問が困難なことや留学生の就職活動に対する支援が十分でない点を挙げた。
2014年の朝日新聞の記事によると、日本に留学している学生のうち約65%が日本での就職を希望している(2013年度JASSO調べ)。しかし、実際に日本で就職するには困難が多く、日本企業側にも問題が多いとされる。参考文献によると、グローバル化が進む中で外国人留学生を採用しようという動きは広がりつつあるが、実際の採用人数は依然として多くはない。最近は外国人留学生を対象とした説明会も頻繁に開催されているが、大手企業の説明会は、東京や大阪など大都市で開かれる事が多く、地方大学に通う留学生には不利である。日本企業側も外国人留学生を必要としており、日本で就職を希望している留学生が沢山いるにも関わらず、需要と供給がマッチしていないのが現状である。
韓国での今回のフィールドワークで励まされたのは、日本企業でも、ソウルにある事務所や関連会社の幹部はみな、学生の留学体験を肯定的に評価していたという点だ。韓国社会では海外で学び、帰国後に学んだことを活かしたり、フィードバックすることを推奨している事が背景にあると考える。ソウルにある日系企業ではどこも、日本留学で身に付けた日本語能力や日本文化や習慣を知っていることを高く評価する姿勢が見えた。だが、日本ではまだ、日本人学生の留学経験を積極評価する企業はそれほど多くないうえ、外国人留学生の採用活動への支援も十分ではない。グローバル化が進む中、日本企業の改善に期待したい。