韓国SV

日韓における在住外国人支援 - 安山市を事例に

井竿千鶴
人間文化課程 4年

韓国では近年、在住外国人の数が急速に増加してきており、この変化に伴い多様な外国人支援が行われてきている。今回私たちは、多文化都市のモデルとされている安山市において、外国人支援を行う3つの施設を訪れた。

安山市はソウルから南西に約30㎞、電車で約1時間の場所に位置する工業都市である。登録外国人数は2014年の時点で69,098人となっており、市全体の人口の約9%を占めていることになる。韓国全体での外国人比率は約3%であり、比較するとこれが高い数値であることが分かる。特に、元谷洞地区は政府より「多文化特区」に指定されている。通りを歩いてみると、中国語や英語・ベトナム語などの看板を掲げた店舗や多言語で対応する銀行が立ち並んでおり、ソウルの中心街とは全く異なるまちの姿を目にすることができる。

写真1:安山市多文化特区の通りの様子 [Korea SV2015]

安山市多文化特区の通りの様子

まず訪れたのは、NGO「Ansan Migrant Center」である。このNGOはセンター長である朴チョンウン氏によって1994年に設立されたものであり、外国人労働者のための人権団体という性格を持つものとして活動がスタートした。朴氏は、このセンターの活動や働きかけが外国人支援をめぐる法の制定に影響を与えてきたと語っていたが、これは韓国の外国人支援の体系を表した文脈であると言うことができる。というのも、韓国における外国人支援施策制定に大きな影響を与えたものとして草の根的な「市民団体の連帯や運動」(李 2007)が挙げられており、このセンターもその一つであることが分かる。また現在は、特に韓国以外にルーツを持つ子供に対する支援を中心に行っているが、朴氏は「国籍や合法/不合法であるかは関係なく支援をしていく」と繰り返し語っていた。こうしたことからも、草の根的な外国人支援の体系を見て取ることができる。

写真2:多文化特区住民センター [Korea SV2015]

多文化特区住民センター

次に訪れたのが、行政の運営する「多文化特区住民センター」である。このセンターには、多言語対応の窓口や海外への送金のできる銀行、また無償の診療所などが設置されている。在住外国人に対しては韓国社会への適応を目的とした語学学習や多言語に対応した運転免許取得のためのクラスなどが設けられている一方で、特に韓国以外にルーツを持つ子供に対しては、母国のアイデンティティの保護を目的とした多言語図書館の設置や母国語の教室の開催なども行われている。

同時に、市民の多文化共生への理解の向上という役割を担っているという点についても、韓国の外国人支援の特徴である。センターでは韓国人市民に向けた韓国語指導員の養成講座や多文化共生に関する講座を開設しているほかに、「広報学習館」という施設を委託する形で運営している。この施設は世界各国の民族衣装や楽器・工芸品などを紹介することを通して多文化共生への理解を深めるというものであった。しかし、こうしたステレオタイプ化された外国人の描き方が、実際に同じ社会で共生していくということに対する直接的な理解を促すものであるのかどうかは、疑問であった。

これまで韓国における外国人支援を3つの施設を通してみてきたが、ここで、日本における外国人支援がどのようなものであるのか考えたい。韓国ではNGOなどの市民による支援があると同時に、政府による外国人支援施策やセンターの設置・運営なども積極的に行われており、「政府+NGO主導的」という評価をされている(李 2007)。一方で日本においては、在住外国人に対して行われているのは労働や就学・留学など部分的な政策であり、生活面や日本社会への適応のための支援施策は十分であるとは言えないというのが現状である(申、2007)。

ただし、日本においてもAnsan Migrant Centerのような外国人支援に関する草の根的な活動を行う市民団体は多くみられる(佐藤、2012)。またこうした団体が日本語教育を行っているケースが多いが、経験や資格のないボランティアによって運営されている場合も少なくない。そうしたボランティアのスキルアップのしくみとしては、韓国における市民への教育施策のようなものが必要であるのではないだろうか。また、韓国では国外にルーツを持つ子供に対して母国のアイデンティティ保護のための施策を行うことも外国人支援の一つの柱とされているが、日本ではこのような考え方はほとんど見られないという(佐藤、2012)。

少子高齢社会を迎えた日韓において多文化共生という考え方が注目を集めている中で、外国人支援の状況には相違があった。韓国における日本にはない支援の有効性や社会的背景の相違を理解したうえで、今後の多文化共生にむけた外国人支援の検討が望まれる。

参考文献
  • 申龍徹(2007)「多文化共生社会に向けた外国人住民政策の日韓動向:「在韓外国人基本法」の制定を素材に」『自治総研通巻』346号2007年8月号:9-42。
  • 李善姫(2011)「韓国における「多文化主義」の背景と地域社会の対応」『GEMC journal』5:6-19。
  • 佐藤友則・朴成泰(2012)「韓国の在住外国人支援の実態と日本の多文化共生施策の今後」『国際交流センター電子紀要』5。
  • 安山市「Ansan ‘ Multicultural City ‘ of Korea」Ansan Migrant Community Service Center。