韓国SV

韓国における多文化共生教育(1)
外国につながりを持つ子どもへの教育

申彩恩
人間文化課程 3年

近年、韓国においても日本同様、少子高齢化が大きな社会問題となり、様々な業界で労働力不足問題が台頭している。そして、日韓共に海外から労働力を輸入することで問題解決を図ろうとしているのが現状だ。実際、韓国の中長期滞在外国人人口は増え続けこの10年間で2倍以上増加したことが韓国統計庁発表の報告書からも見ることができる。外国人の数が増えればまた同じく増えるのはその外国人つながる子どもたちだ。私は日本の「外国につながりを持つ子どもの教育現状」について以前より研究を行っていたため、今回の韓国SVでも、韓国で行われている「外国につながりを持つ子どもへの教育」や「韓国の子ども向けの多文化共生教育」に関心をもった。よって、今回韓国SVプログラムでは、行政や地方自治体、民間が行っている様々な多文化共生関連施設に訪問して、インタビューを行い調査した。また、それを日本の多文化共生支援事業と比較することで韓国の多文化共生教育の特徴について考察した。

日本の事例を先に述べると、代表的なものとして「虹の架け橋教室」を挙げることができる。2008年のリーマンショックが景気後退に大きな影響を与え、親とともに来日した子どもの多くが金銭的な問題により学校などに行けず不就学・自宅待機となった。そのことが問題とされ、国際移住機関(IOM)と文部科学省の共同拠出で2009年から「虹の架け橋事業」が始まった。対象となるのは定住外国人の子どもで、もともと3年間(2009-2011)の予定で実施されたが、地方自治体と実施団体(主にNGO)の要望により3年延長され2014年まで行われた。代わりの事業を立てることなく終了したため、それまで行われていた教室が継続危機にさられたことについては様々な意見は出ているが、事業自体は成功であったと言われている。

一方、韓国において行われている「外国につながりを持つ子ども」向けの事業は「中央政府(行政)+地方自治体」と「地方自治体+民間」に二分割されている。これは韓国の支援法の対象になれるかなれないかによって分かれているのだ。これについて韓国女性家族部と地方自治体が共同運営している多文化家族支援団体所属のAさんにインタビューを行った。彼女によれば、韓国の多文化家族関連事業及び関連法律の策定及び施行は女性家族部多文化家族政策課で行っており、韓国の外国につながりを持つ子どもの支援について知るためには、韓国の支援政策の明記によく使われている「多文化家族」という表現の定義にも注目する必要性がある。

韓国では多文化家族を支援するための法として、「多文化家族支援法」が2014年1月1日から施行された。「多文化家族支援法」の対象になれば、様々な支援をもらうことができる。具体的には、結婚移住民として韓国で生活する場合は韓国国民同様、国民基礎生活保障制度や緊急福祉支援制度を利用して生活支援をもらうことができる。その子どもには韓国と韓国以外の親の国の文化などを学ぶ機会を増やすための教育制度を利用することができて、韓国以外の国で生活後、韓国に来た場合は「移住背景青少年」になることで教育を含む経済的支援と精神治療を含む心理的支援を受けることができる。この法律の第二条にある定義では、「多文化家族」とは「韓国国籍者と結婚移住民からなりたった家族」または「生まれながらの韓国国籍保持者と帰化などの理由によって韓国国籍を取った者からなりたった家族」を指す。つまり、外国国籍の両親から生まれた子どもは韓国行政が行っている「多文化家族支援法」の対象になれないのだ。

一方で、「多文化家族支援法」の対象外となる外国国籍の両親(移住民)からなりたった家族は「地方自治体+民間」の支援を受けることができる。その支援を積極的に行っているのが京畿道安山市の「多文化特区」である。多文化特区は民間が主導してそれに地方自治体の協力で加わって成り立った地域として、2009年から多文化特区として指定されている。多文化特区のより詳しい内容を聞くため、多文化特区での支援活動を最初に行った安山移住民センター(NGO運営)代表のBさんと多文化特区住民センター(行政運営)所属のCさんにインタビューを行った。

写真1:Bさんとのインタビューの様子 [Korea SV2015]

Bさんとのインタビューの様子

安山移住民センターの代表を務めているBさんは当施設を1994年から運営し始めて、外国人の人権保障のために活動している。この活動は行政より先駆けて行い始めた活動として、「国境のない街」をスローガンの下で合法入国、違法入国関係なく安山に在住する外国人の生活支援を行っていることが特徴と言える。国際結婚などで生まれた子どもは多文化幼稚園などで面倒を見てもらうことができるが、違法移住民を両親に持つ子どもは法律で保護を受けることも難しく、支援を受けることもできない。そのため、同センターではそのような子ども向けのコシアン(Korean+Asian)幼稚園や韓国語が話せないことなどが理由で学校に行けない子供のための代案学校の運営などをしている。また、韓国の学生向けの多文化教育プログラムも設けて外国人と韓国人の双方からの教育を行っている。

写真2:多文化特区住民センターの多言語による相談窓口 [Korea SV2015]

多文化特区住民センターの多言語による相談窓口

写真3:同センター内の児童図書館 [Korea SV2015]

同センター内の児童図書館

安山市が運営している多文化特区住民センターでは、主に国際結婚で韓国に来た人たちと、就職ビザを持って韓国に来た人たちの二種類の外国人を対象とした支援を行っている。まず、国際結婚で韓国に来た人向けに韓国語講座を開くとともに、その子供には韓国と外国籍の親の出身国の文化を同時に学ばせることでグローバルな人材としての育成をサポートしている。また、就職ビザで韓国に来た人たちとその子どもを対象とした韓国語講座も開催しており、まず韓国と韓国の文化に馴染ませるための工夫を行っている。その例として挙げられるのが、韓国語能力試験クラスを設けたり、法務部の社会統合プログラムを行ったりすることだ。地方自治体による支援は、正規に韓国を訪問し、システム上に登録している外国人向けのプログラムである。また、安山市がこの外国人集中地域を多文化特区として登録したのはこの地域を観光地化するためでもあったため、ただの韓国語教育だけでなく秩序教育なども行っていることが他との大きな違いであるように思えた。

以上、日本と韓国の事例を比較することで、韓国の多文化共生支援事業の特徴について考察を行った。そこで気づいたことは、韓国の多文化共生教育支援事業、特に行政主導の事業の対象が「自国民」中心であることだった。韓国人の血を継いている子どもの支援に対して、そうでない子どもの支援が少々乏しい印象を受けた。しかし、それが間違っているということではない。自国民により多くの支援を与えたいと考えるのは自然なことであり、韓国で海外旅行が自由化されたのが1989年であることを考慮すれば、韓国人が見慣れない「移住民」を社会の一員として受け入れることに難しさを感じるのも無理ではないだろう。日本においても過去を振り返れば、外国人支援にあたって日系人の受け入れ及び支援を優先した事例がある。それを考慮すれば、韓国の現状をネガティブに捉える必要性は全くないことが分かる。これからの韓国における多文化共生教育がどのように進むのかを予測することは難しいが、多文化共生社会の実現を目指すことは間違いないと思う。