多文化共生を見つめる目を育てるために、韓国では「外国につながりを持つ子ども」だけでなく「韓国人児童」向けの多文化共生教育も行っている。行政、地方自治体、民間など様々な団体が各々の事業を進めていて、それぞれが異なる立場故に異なる目標を持って事業を行っているのが韓国の多文化共生教育事業の特徴である。韓国児童向けの多文化教育の現状を知るため、行政、地方自治体、民間が行っている多文化共生教育関連施設を訪問した。
多文化広報学習館
まず、最初に訪問したのは、地方自治体が運営している安山市多文化特区の「多文化広報学習館」だった。この施設は他の施設に規模は比べ小さかったが韓国各地から年に1万2千人ほどの人々が訪問しており、その多くが多文化教育のために訪問した幼稚園児や小学校低学年である。比較的ステレオタイプ化された外国文化の展示法を目にすることが多かったためその施設を通して本当に外国人や外国文化に対する理解が深まることができるのかは少し疑問に思えた。しかし、当施設の訪問者の多くがまだ幼い子供であることと、先述した通り多文化特区自体が観光地であることから、この施設の設立目的も多文化共生教育だけでなく観光の一部としても役目をあると考えるなら、展示物や展示法の軽さを理解することも難しくない。
KOICA 地球村体験館
次に訪問したのは韓国行政が運営している「KOICA 地球村体験館」だ。ソウル郊外に位置しており、最寄りのバス停から歩いて20分ほど離れていたため、個人で訪問してくる人は珍しいようであった。テーマを変え、展示内容を変えているが、私が訪問した時は「シルクロード」のテーマに沿って展示されていた。体験館という名前になっているが、個人で訪問したときはパンフレットをもらうため窓口の職員と話しただけで、それ以外で人と会うことも、案内を受けることも、何かを体験することもできなった。展示内容もKOICAが開発途上国においてどのような支援活動を行っているのかについて説明されていて、設立目的が団体の活動広報にあることが一目で分かった。
多文化博物館の中国館
多文化博物館に展示されていた各国の人形
最後に、民間が運営している「多文化博物館」だ。ソウル市内に位置しており、駅から博物館までの案内板があり、すぐ見つけることができた。民間が運営していることもあり、他の施設が無料であったのに対し、「多文化博物館」では観覧料を初めて支払った。展示物は主に韓国では知名度の高い中国、イタリア、エジプト、ロシアなどの国々の建築物や遺跡の縮小模型であり、国の紹介文などがその横に書かれていた。観覧料以外の追加料金を払うことで外国人スタッフと一緒に伝統文化体験ができるようだったが、これも団体客向けのサービスだったので利用することはできなかった。
行政・地方自治体・民間によって多文化共生教育関連施設の設立目的が異なるためその施設の雰囲気や展示内容もまた真逆と言えるほど異なっていた。上記で述べたように安山市が運営している「多文化広報学習館」は教育目的というよりは観光地の一部であるかのような位置づけであり、その規模や展示は他の施設に比べて充実しておらず、小規模感があった。それに比べ「KOICA 地球村体験館」はKOICAが開発途上国で行っている支援を紹介することが目的となっているため、内容もまたその支援を受ける国と韓国との関係、その国が抱えている問題になどについて主に扱われていた。最後に、民間が運営している「多文化博物館」は異文化を紹介することを目的として建てられたので、主な訪問者である子供が興味を持ちやすそうな国々が紹介されていた。例えば、中国などの近い国や、エジプトなどの子供が興味を持つような展示物が多い国、ヨーロッパのように子供が既にその存在を知っている国などを挙げることができる。
設立目的こそ異なっているこの3つの施設に共通していることが一つあり、個人的に私はそこに興味を持った。それは、訪問者の9割以上が幼稚園児または小学校低学年であり、それ以外の個人客はほとんどいないことである。実際に、個人的に訪問した「KOICA 地球村体験館」「多文化博物館」で最初に聞かれたことは、訪問目的だった。個人の訪問客がよほど珍しかったようで、これらの施設の個人客の無さが実感できた。観光目的を持つ「多文化広報学習館」、「多文化博物館」とは異なって、「KOICA 地球村体験館」の場合は、敷地内に入らない限りそこに多文化共生関連施設があることすら気づかないほど、ひっそりとした佇まいであった。
韓国SVプログラムに参加して、様々な多文化共生関連施設を訪問して韓国における「外国人」をイメージや概念をどのように教育しているのかについて調査した。行政・地方自治体・民間が各々の目的を持って活動を行っており、目的が異なる故に、自ずとその教育や支援に差が出る。しかし、異なる施設に共通しているのは「現状との距離感」であった。韓国社会で共に生活をしている外国人とは少々距離のある話が主だったからだ。
しかし、多文化共生教育を韓国人児童に行うことは重要である。幼いうちから外国人や異文化に触れられる機会を与えるということは「内側からの多文化共生社会づくり」に力を入れていることを意味するからだ。どれほど「外国につながりを持つ子ども」向けの支援を行っても韓国国民が彼らを社会の一員として受け入れなければ真の多文化共生社会は成し遂げない。それを考えるなら、これからの韓国で真の多文化共生社会が実現されるのはそう遠くない話かもしれない。