パラグアイSV

(5) カテウラ

佐々木美桜
教育人間科学部人間文化課程

1. カテウラとは

カテウラ地域はパラグアイ共和国南西部、首都アスンシオンから車で数十分程の距離に位置するゴミ集積場である。地域の正式名称は「Bañado de Asunción」であり、カテウラという名前はこの地域に初めて移り住んだ人の名前に由来するという。

先述した通りここの地域はゴミ集積地域となっており、ゴミがあちこちに高く積まれ山を指しているが、その山に紛れ多くの貧困層の人々が不法占拠という形でこの地域に暮らしている。そのためこの地域には木やレンガでできた家が何軒も建っており、家によっては電気など生活に必要な設備がきちんと整っているのである。また地域共同体も存在し、共同体ごとに助け合いながら生活しているという。

この地域に人々が不法占拠するようになった理由としては、1960年代から雇用やチャンスを求め多くの地方民が都市部に流入したことが挙げられる。あまりにも多い人口流入に都市部では労働・住居や基本サービスなどにおいて供給の問題が発生し、結果多くの貧困層を生み出すことに繋がった。そのようにして住居を手に入れることができず都市部からあぶれた人々が、カテウラ地域に住み始めるようになったと考えられている。

これらの情報はNIHON GAKKO大学のペドロ先生の調査結果より得た情報である。まだこの地域に関する調査はあまり行われておらず文献や情報も少ない。またペドロ先生によると、この地域の共同体ではシングルマザー問題・ドラッグ問題が深刻であるという。そこで今回、学術交流協定を結んでいるNIHON GAKKO大学と横浜国立大学が協力し、カテウラ地域の調査や問題解決に取り組むこととなった。

パラグアイSV2015:カテウラの学校の子どもたちと集合写真

カテウラの学校の子どもたちと集合写真

2. 調査の限界

カテウラ地域は本来ゴミ集積地域である場所に貧困層の人々が不法占拠という形で居住している。そのため地区によってはその安全度は極端に低く、私たちのような外国人が調査のために何度も易々と訪れることのできる場所ではない。また立ち入るには特別な許可が必要な場所であるためにパラグアイ人でも入り慣れていない人がほとんどであり、安全の確保という点から他の調査地のようにいくつかの班に分かれ気軽に調査を行うことはほぼ不可能に近かった。そのため、土地を把握する、より多くの世帯を回る、というようなより多く歩き回る必要がある作業はあまりできなかった。

また、市の許可がないと立ち入る事のできない場所である事から、私たちのような外部の人間はカテウラ地域の人々にとって珍しいものであり、短い調査期間でその警戒を完全に解きながらより深いインタビューを行う事は不可能である。より早い段階で少しでもラポールを築き、調査に必要な情報及び来年度に引き継ぐことのできる情報を聞き出す必要があった。

3. 活動内容

本来の行程ではカテウラの調査期間が5日間取られていたが、10月はパラグアイが選挙期間に入っていたために市が忙しかったことに加えて、カテウラ地域への立ち入りをアレンジしてくださったNIHON GAKKO大学の先生方が安全面の確保が十分で無いと判断したことから、当初の予定を変更し10月26日の午前にカテウラ地域にある学校への訪問、そして10月30日の午前にカテウラ地域の踏査を行った。

また、10月28日の午後にはチャカリータという貧困層の人々が暮らす地域を訪問し子供達とブンブンごまを作って交流し、10月30日の午後にはチャカリータの子供達が通う幼稚園及び小学校を訪問し先生方にインタビュー調査を行った。

【カテウラ地域の学校】

カテウラは地形の影響から度々洪水の被害に脅かされている地域であり、私たちが訪れた学校も洪水の影響により一時的に使えなくなった校舎の代わりに教会から場所を提供してもらったものであった。この仮の校舎には小学1年生から高校3年生まで約290名の生徒が通っており、広い講堂の壁沿いに点々と黒板を設置するという方法でクラスを区画し、授業を行っていた。

校長を勤める男性によると、この学校は15年前から授業を行っており、年々生徒数は増加しているという。しかし公立の学校であり、他の学校に比べるとレベルが低いという理由から市による学校への設備への投資は無く、今現在はトイレや水、クーラーが無い中で学校を運営せざるを得ず、夏場は45度にもなる中で授業を行っているという。市からの投資が無い理由については、教育省が生徒数の少ない学校を縮小する方針を打ち出していることが関係していると考えられる。

また、この学校に通う小学生から高校生20名と、4グループに分かれて会話する機会があったためにグループごとにお互いについての質問を行った。子供たちに質問をしていく中で各グループが特に感じたことは、シングルマザーの家庭が多いということと子供達が皆勉強熱心ということである。

詳しい家庭環境などあまり深く立ち入るような質問を行うことはできなかったが、どの家庭も兄弟が多く、また洪水の影響により元々住んでいた地域から避難してきたという子供も見られた。よって、恐らく生活に苦労している部分が多いのではないかと考えられる。

また、好きな教科や嫌いな教科、勉強が大変な教科について熱心に話していたり日本での勉強について質問してきたり、不満なことを尋ねると「国の政治」や「警官の汚職」という言葉が出てきたこと、またそれらを正せる職に就きたいという子供もいた様子から、子供達は非常に勉強熱心であり、将来につなげるための学習を望んでいる様子が窺えた。

そして、放課後の遊び場所や友人と集合したり遊んだりする場所として「学校」が多く挙げられたことから、学校は子供達にとっての居場所となる最重要な設備の一つであると再認識させられた。

パラグアイSV2015:洪水の影響で使えなくなってしまった教室

洪水の影響で使えなくなってしまった教室

【カテウラ地域への踏査】

カテウラ地域への踏査を行った際、ゴミがあちこちに乱雑に積み重なっており少し開けた場所があると多くのゴミが散乱していたものの、通りには家があり、人や家畜も見受けられ非常に生活感のある場所であるように感じた。しかし遠くに連なる山が全てゴミでできていると理解した時改めて「ゴミを集めるための地域」であることを再認識させられた。生ゴミが少ないためかあまり匂いはしなかったように感じたが、それでもあまりにゴミが散乱していることや外に壺を置いて囲いを付けただけの簡易トイレから、衛生面は非常に悪いことが窺えた。家はごみ捨て場を切り開いたような場所に点々と建っており、木でできた小屋のようなものだったり頑丈そうなものだったりと様々であった。子供達は庭でおもちゃを使って遊んだり犬と遊んでいたりしたが、この地域に私たちのような外国人が立ち入ってくるのは珍しいためか、他の地域の子供たちと違い私たちに近寄ってくるのでなく、少し遠くから窺うようにして見ていたのが非常に印象的だった。奥の方へ進むと、洪水の被害を受けた後がまだ残っており、小さな沼のようになっていた。山と山の間にあるような場所に位置するため、大雨が降るとすぐに洪水が起こってしまうのだという。

パラグアイSV2015:学校の奥に広がるゴミ山

学校の奥に広がるゴミ山

4. 終わりに

先述した仮説について、調査期間や調査対象者への質問が不十分だったために満足な情報を得ることができず、考察することができるまでに至らず終わってしまった。しかしシングルマザー問題について、NIHON GAKKO大学の先生から「自分のパートナーが身ごもると、男性はそのパートナーを捨てて新しい女性の元へ行ってしまうために子供は女性とその親が育てなければならない」という情報を得たことから考えると、性に関する知識や心構え、ライフストーリーの設計ができていないという原因があるように見受けられた。

また、カテウラ地域の学校に通う子供たちと対話した印象や実際にカテウラ地域を踏査した印象から、この地域に住む人々は金銭的な面や地理的な面、そして機会という面から、現状の生活から抜け出す術をあまり持ち合わせていないのでは、と感じた。

以上のことから、今後も機会をいただけるようであれば、住民に調査を行いその生活に関する調査、現状への不満度などの調査、ドラッグ問題やシングルマザー問題の原因についてより詳しく調査するべきだと感じた。