道直しプロジェクトが行われたF村は、カーグアス県コロネルオビエド都市部から30キロほど離れた場所に位置し、国道から赤土道を5キロほど入ったところにある。村を通る唯一の道は赤土道であり、政府の支援などによって若干の意思で舗装された道路はあるものの、雨が少しでも降れば車やバイク、トラックは通ることができなくなり、移動手段は徒歩のみとなる。F村の大多数の世帯が農業で生計を立てており、コロネルオビエドなどの都市に野菜を定期的に売りに行っているが、雨が降ると野菜を売りにいけなくなるため、生計を立てるのが難しくなる。また、それだけでなく、病気など緊急を要する場面でも雨が降っていれば、徒歩で近隣の村の診療所までいくしかなく、多くの困難が生じていた。前年度までのパラグアイ渡航ではF村に学校を建設することを目標としていたが、様々な事情により、現状維持という形になった。そこで他に私たちができることはないか考え、また京都大学教授、NPO法人道普請人代表の木村亮教授が横浜国立大学で講演をされた際の縁から、ご協力を得て、道直しを行うことが決まった。今回の2015年11月の活動においてはデモンストレーション(ある1部分を実際と同じように道直しを行うこと)を行い、準備するものや直し方の確認などを行った。
渡航前に、日本で木村教授と藤掛教授、学生側の代表者で事前打ち合わせを行った。打ち合わせの内容は、木村教授が作業当日の前夜からパラグアイに到着するため、それまでに渡航チームでやっておくべきことの確認であった。それに基づいて行った準備が以下の通りである。まずは、デモンストレーション前に村びとたちと2回会議を行った。F村の人々のプロジェクトに対する合意を取ること、作業日に村びとたちに集まってもらうように呼びかけること、直す道の場所を決めること、必要物品を村人たちに用意してもらうことが主な目的であった。一回目の会議は11月3日にF村を訪れた際に、住民集会が開かれ、道直しのニーズ把握を行ったときのものである。住民集会に集まった住民は道直しに意欲を示しており、機会があれば参加したいということであった。しかし、この住民集会に集まった住民はF村全世帯ではなく、また農協グループが主だったため、全世帯を対象とした住民集会を開催することとなった。2回目の会議の開催を告知するために別日に1軒1軒家を周り、インビテーションカードを配った。この時に道直しについてどう思うか聞いたところ、皆道直しに賛成であると答え、道を直すことの必要さが感じられた。また、参加不参加を確認し、名前を控えることによって集会への参加率をあげようとした。そして改めて2回目の会議を行なった。しかしこの日は朝から雨が降り、数人は村に入れず、朝から村に入っていた先生と途中から時間をかけ歩いて村にたどり着いたメンバーが会議を行った。日曜日ということもあり集会を開く予定であった学校となりに位置する教会でミサが開かれていたため、一定数の参加者を集めることができた。この説明会では、道直しの概要を住民に伝え、事前準備が必要なものについて住民にお願いをした。この2回の会議を通してF村の人々は雨により道がぬかるむことや穴が開いていることで不便さを感じていることが分かった。そして直すことができるなら直したいという意思を持っていることが分かった。また必要物品として、スコップ、つるはし、一輪車などを村の人々が用意してくれ、コンパクターの作成もしていただいた。渡航チームでは、土嚢袋、ひも、スコップ、つるはし、バケツを準備した。
①〜④を19日に行い、⑤〜⑦を20日に行った。
道を直すことに関して村の人々皆肯定的であり、積極的であった。土嚢は約250個使い、2日間で道を12mほど直すことができた。1日目は5人の方が集まってくれたが前日が雨であったこと、また収穫期であることから集まれない村の方が多くいた。2日目は1日目よりも多く倍以上の方々が集まったが、同様に来られない人は多くいた。しかしお昼ご飯を準備していただくなど、様々な形で多くの方が参加してくれた。また、今回の作業後にインタビューを行った際に、参加住民の全員から満足したとの声を聞くことができ、1人の住民からは、他にも直したい地点があるため直してもいいかという要望が出たことからも、住民にとって大きな収穫が得られたプロジェクトとなっていた。
完成後木村教授と共に
今後の課題として道直しをする場所、また作業日時など村の方が合意したうえで行うことや、作業日時の工夫などが必要であると感じた。道直しをする場所については、村のすべての道をきれいにするわけではないので、村の方たちにとって一番より良い場所を話し合って行っていくことが重要であると考えられる。また、道直しは村の方たちが自分たちで行っていくことが重要であるとしているため、労力を費やす人々が、何人かに集中しないことが好まれる。さらに農業など日々の仕事への影響がないことが重要である。そのため、作業日時の工夫の必要性がとても高いと考えられる。村の方たちは多くの人が道直しに積極的であったためこれらの課題をクリアしていくことで今後道直しを行うことができると感じた。
このプロジェクトで直した道は、11月12月のエルニーニョ現象による大雨の影響で、表層といくつかの土のうが流されてしまった。しかし、このプロジェクトで直した箇所の他に、住民自身が呼びかけを行い住民だけで2箇所、直していた。直し方はプロジェクトで行ったものと同様であり、住民からは自身で直したという自信に溢れた声が聞けたと同時に、この道はプロジェクトで直した道と同様に崩れないかという不安の声も聞こえた。
1月10日撮影 壊れてしまった道
このプロジェクトでは「住民による持続的な道直し」という目標を掲げていた。実際、このプロジェクトで行う方法は多くの肉体労働を伴い、住民自身もたくさんの苦労を伴ったものであった。それにもかかわらず、このプロジェクトで直した道のほかに2箇所の道を、住民たちが進んで直していたことを考えれば、今後の大きなステップとなるだろう。しかし、このプロジェクトで直した道はパラグアイの大雨に耐えることができず一部が流されてしまった。住民はこのプロジェクトで行った方法しか知識にないため、これ以上自分たちでやってもまた流されてしまうのではないかという住民たちから不安の声も聞こえた。住民とこの地に適応したプロジェクトを実施するためには多くの検証を要し、その検証段階に不備があったことは間違いないが、住民がプロジェクト後にも自身で道直しを行っていたことから、住民たちはプロジェクトに対して大きな関心を持っていたと言える。しかし、F村は農業で生計を立てているために、夏の雨季の時期は現金が手元になく、材料購入が難しい。道直しを継続的にしていくためには、現段階では外部からの支援が必要であり多くの課題が残っている。このプロジェクトでは事後評価があまりなされていなかったため、事後評価の重要性とまた継続的なプロジェクト実施の難しさなどが感じられた。
2016年1月29日 道直し コンパクターで土を固めている様子
2016年1月 道直し終了後の様子