台湾SV

台湾大学学生との交流

木村晴香
人間文化課程 1年

私たちは今回台湾大学を訪問し、学生交流を行った。まず初めに台湾文学研究所を訪れ、日本統治時代の文学についての講義を受けた。そのあと台湾大学の学生とともに昼食を取り、交流を深めた。最後に校史館を訪れ、台湾大学の歴史、研究成果などを見て回った。台湾大学の前身は、日本統治時代に建てられた台北帝国大学である。第二次世界大戦が終結した1945年に、台北帝国大学は台湾大学となった。現在台湾大学は台湾でもトップクラスの名門大学である。

写真1:大王椰子の並木道 [Taiwan SV2015]

大王椰子の並木道

写真2:傅鐘 [Taiwan SV2015]

傅鐘

台湾大学の正門を抜けると、大王椰子の並木道が出迎えてくれた。この道は総図書館まで続いており、南国の雰囲気を感じさせてくれる。しばらく進むと鐘が見えてくる。この鐘は傅鐘(ふしょう)といい、1949年から1950年に渡って学長を勤めた傅斯年を記念して作られたもので、今では台湾大学の校章のモチーフにもなっている。この鐘は授業の開始と終了のタイミングで21回鳴らされるのだが、それは、傅斯年学長の「一日は21時間しかない。あとの3時間は沈思黙考のための時間である」という言葉に基づいている。

初め私たちは台湾文学研究所を訪れ、台湾大の院生や政治大学の院生等と共に講義を受けた。今回の講義で取り上げられたのは、濱田隼雄『南方移民村』である。この本は日本統治時代に描かれた物語であるから、当然日本語で書かれた本であり、私たちは事前にこの本を読んだ上で講義に臨んだ。まずあらすじを述べると、台湾東部の移民村である鹿田村に東北出身の医者、神野が移住するところから物語は始まる。神野は医者の仕事をしつつ、巡査の石本等とともに甘蔗(さとうきび)栽培のための水路の建設に奮闘していた。途中で移民村経営の中心人物として製糖会社から鹿田村に派遣された國分が加わる。農民等の懸命な努力の甲斐もあり、水路は完成したが、台風によって崩壊してしまう。しかし、農民等はくじけず、数年後に水路の再建に成功した。ところが運悪くまたも台風で壊滅してしまう。この時の暴風雨によって國分は水路に転落し、無念の死を遂げる。私たちが事前準備として読んだのはここまでであるが、物語には続きがあり、農民たちは移民村の開発を諦め、台湾を離れて南への進出を決意するところで結末を迎える。濱田隼雄はプロレタリア文学(多くは抑圧された労働者をテーマとして、社会主義、共産主義的な思想で現実を描いた文学)としてこの本を書いたのであるが、プロレタリア文学としては矛盾した点が見られる。一つに農民と製糖会社の関係がある。農民の視点に立って考えてみると、製糖会社というのは「敵」と言っても過言ではない。実際は自分たちの利益を搾取する存在であっただろう。しかし、この本ではそれに対する記述がなく、それどころか農民と製糖会社の関係を良く描いている。また、南方政策を暗示するような結末がある。台湾の開拓に失敗した農民は、さらに南方に進出する決意をし、物語が終結するわけだが、これは、南方政策という国策を助長するものとして捉えることもできてしまう。濱田隼雄は日本人としてこの本を日本贔屓で書いたのかもしれないし、検閲を考慮してこのように書かなくてはいけなかったのかもしれない。この講義を聞いて私はこのような視点があることに初めて気づかされた。日本統治時代の本をこのような視点から捉えられるようになったことは大きな成果となった。

昼食後、台湾大学の院生等が校史館に連れて行ってくれた。校史館は日本統治時代に建てられたものであり、現在の校史館は2005年に新しく開館した。それ以前は図書館として使用されていた。校史館は学外の人々に台湾大学を知ってもらうための場所であると同時に、台湾大学の卒業生の憩いの場でもある。校史館には台湾大学の歴史や研究成果などが展示されており、私たちが分からないところは台湾大学の院生が丁寧に教えてくれ、私たちは台湾大学についてより知識を深めることができた。私が最も印象的だったのは、校史館の一角にある台湾大学の歴代の校歌を聞くことができるスペースで、台北帝国大学時代の日本語の校歌を聞いたことだ。台湾がかつて日本の植民地であったということを改めて実感するとともに、台湾が自分たちの歴史と向き合おうとする姿勢を私たちは見習わなければならないと感じた。

今回の台湾大学学生交流は、台湾大学を通して日本と台湾の関係を改めて実感でき、また、日本統治時代の文学について学び、新しい見解を持つことができるようになった点で有意義な時間であった。

写真3:校史館前での一枚 [Taiwan SV2015]

校史館前での一枚

写真4:校史館内の様子 [Taiwan SV2015]

校史館内の様子

写真5:台湾文学研究所 [Taiwan SV2015]

台湾文学研究所

写真6:濱田隼雄『南方移民村』 [Taiwan SV2015]

濱田隼雄『南方移民村』