オーストリアSV

ホイリゲ文化と観光

金森龍大

私は今回のスタディーツアーにおいて、オーストリア独自の文化である「ホイリゲ」に焦点を置きつつ、観光都市として成功を収めるための一つのパターンについて考察してみた。

本題に入る前にまず「ホイリゲ」というものについての説明をしようと思う。ホイリゲとは簡潔に言うならばワイン居酒屋のことである。1789年、皇帝ヨーゼフ二世がウィーンのぶどう農家に、年間 300日以内に限り自家製ワインを小売りし、簡単な食事を提供してもよい、という特別許可を与えたのが始まりだ。「今年の」を意味する「ホイリゲ」は、1年未満のワインの新酒のことであり、ぶどう農家がその自家製ワインとチーズや自家製ハム、ソーセージなどの軽食をビュッフェ・コーナーでセルフサービス提供する居酒屋。それがいわゆるホイリゲだ。

ホイリゲ文化はオーストリアのワイン事情と深くかかわっている。それが顕著に表れているのがワインの生産量と輸出量だ。例えばオーストリアワインの日本への輸出量だが、生産量に比べて著しく少ないのだ。この理由として一つは地産地消が挙げられるだろう。ホイリゲという文化により、地元で作られたワインがその地域で消費されるという形態が確立されているのだ。私が実際に行った多くのホイリゲは地元客が大半を占めていたし、事実、ホイリゲはその町の居酒屋・食事処の役割があるため、町のホイリゲすべてが同時に休むことの無いよう、定休日が重ならないように調節されているのだ。またホイリゲの存在により、オーストリアに大規模なワイナリーが存在しにくいことも輸出量が少ない理由の一つではあるだろう。

ところで、このホイリゲによる地産地消に観光都市としての成功の鍵があると私は考えた。つまり「自分たちのないものがあそこでは盛んだ」という要素が人を呼びつけ、観光地として名を成すのではということだ。オーストリアワインは地産地消のために他国では手に入りにくい、しかし是非とも手に入れたい、よしならば現地へ、という思考を誘発させることで集客を行うことができる。他への放出でその存在をアピールするのではなく、一種の秘密性のようなものが求心力となるのではないだろうか。もちろん、ただ生産量を抑えて希少性を上げるという意味ではない。オーストリア人が自国のワインを愛し、そして好んで飲んでいるからこそ、我々はその魅力に引かれるのだ。魅力的な地産地消が観光都市を築き上げるのではないだろうか。