『音楽の都ウイーン』
このフレーズは、どこかしらで1度は耳にしたことがあるだろう。
日本にもこの『音楽の都』のような接頭語をつけて、文化を町の盛り上げに利用しようとしている地域は多い。(とはいえ、あまりその接頭語が有名にならない地域の方が圧倒的多数である。)しかしオーストリアから遠く離れた日本でも、 ウイーンと言えば音楽というイメージを持っている人は少なくない。
そのようなイメージを持たれるウイーンに渡航するに当たって私は、「本当に音楽の都といえるところなのか?」という視点から、音楽とウイーンの関係性を中心に調査計画をたてた。
現地に行ってわかったことは、この音楽のイメージは歴史ありきのものであること、そしてその歴史が観光資源に上手く使われているということだ。「モーツアルト」「ベートーベン」「シューベルト」などの音楽に全く興味が無い人でもある程度知っている作曲家が特にとりあげられ、誰が見ても音楽に結び付けやすい要素を用いることで観光の促進が図られているように見受けられた。
おみやげ屋さんにはモーツアルト・クーゲルンというチョコレート菓子をはじめとした作曲人関連のお土産や、音符や楽譜をモチーフにしたお土産がずらり。いかにも「音楽の都ウイーンに行ってきました」とアピールできるようなお土産で、ウイーンに来たことがない人にもそのイメージを植え付けることが可能だ。
施設的な面では、モーツアルトやベートーベン、ハイドンなど有名作曲人の家が一般向け博物館として開放され、その人の生い立ちなどを解説する場として活用されている。特に宣伝ポスター・大きな看板もなく普通の路地裏にそれとなく建っている家なのに、中に入るとたくさんの観光客でにぎわっている作曲人の家もある。それだけ知名度そのものが施設の宣伝になり、訪れる人は絶えないのである。また外国人観光客をターゲットの客層にしている所も多く、他国語の博物館パンフレットはもちろん、特にモーツアルトハウスという所は約10か国語の音声案内機が用意されている(もちろん日本語もある)手厚さだ。
また、歴史と知名度を利用すれば墓地さえも観光地になる。ウイーン中心地から少し離れた中央墓地という所では音楽家専用のエリアまで作られ、そこに各地の墓地から集められた有名作曲人の墓が軒並み連ねている。ブラームスやベートーベンの墓の前には色鮮やかな花がたくさん置かれ、死後数百年経った今でも参拝者が絶えないことを物語っている。周りを見渡すと、ガイドブックを持った旅人らしき人もちらほらいた。
他にも、かの有名なオペラ座は内部ツアーを行っているなど音楽の歴史をつかさどる所はたいてい観光的な側面を併せ持っていることがわかる。
音楽の都、というくらいだから街中にも音楽が溢れているのではないかと考える人も多いはずだ。確かに、路上でバイオリンやサックスを演奏している人は多く見かけた。だがしかし、カフェや本屋の店内でよくかかっているようなBGMを聴くことはなく、日本ではよくあるはずの信号点灯時のメロディ・電車の発車メロディなども耳にすることはなかった。音楽の都の中で、そのようなBGMや合図としての音楽はむしろ音楽の都でない日本のほうが発達していることに気づく。
このように他の国に行くことで、他の国のことと共に日本の特徴を見つけることもできる。私は音楽という点から、海外を通して日本を見つめられることに気づいた。
ここに書ききれなかったことも多くあったので、興味を持った人はぜひウイーン現地に赴いてほしいと思う。