わたしは、約一週間のコルシカ島滞在を大いに満喫できた要因の一つに、コルシカの食べ物のおいしさが挙げられると考える。チーズやワイン、サラミやクレモンティーヌ(コルシカ特産のみかん)など、コルシカの味はわたしたちの口にとてもよく合った。本当にどれを取ってもおいしいものばかりであったが、今回のコルシカ島滞在で、最もわたしの印象に残ったコルシカ島の食材は「フィガデッル(figatellu)」である。
フィガデッルとは、コルシカ島では非常にポピュラーな豚のレバー入りのソーセージのことで、行く先々で、現地の方々が歓迎の料理として出してくれた。フィガデッルは主に料理の食材として使われることが多いそうだが、今回はどこで出されたものも、バーベキューのように炭火で焼いたフィガデッルにバケットで挟む形式だった。
フィガデッルは生でも食することができる燻製品であるが、冬季は網焼きにすることが多いとのこと。なぜならコルシカでは冬季、特にナダーレ(Natale)と呼ばれるクリスマスから新年にかけてはどこの山村でも広場で薪や間伐した木、あるいはその根っこなどをキャンプファイヤーのように焼き続け、村人が集まり、暖をとりながら談笑している。その際に頬張る食べ物として、焼いたフィガデッルをバゲットで挟んだサンドイッチ、そしてワインが最適なのだと言う。
わたしは、レバーがあまり得意ではないのだが、フィガデッルはレバーの程よい風味と、ジュワッと溢れる肉汁がおいしくて、何度もおかわりしてしまった。帰国後に長谷川先生が書かれた論文を読み、美食大国として知られるフランスでは、その料理のメインとして牛肉が来ることが多いが、コルシカ島の伝統料理には牛肉がほとんどないことを知った。コルシカ島では古くから、その土地柄に合った養豚業が栄え、豚肉を使った加工品が多く作られていたそうだ。「地豚認定」やAOC登録によって、コルシカ島産の豚をブランド化、商品化する動きは単に島おこしとは言えない。他の動物(犬、牛、馬、ロバ等)も近年、「コルシカ種」として認定されていることや、ポルク・ヌシュチュラーレ(Porcu Nustrale=我らの豚)というコルシカ語の名称も分かるように、コルシカの民族文化とそれに対する強い愛着・アイデンティティのなす結果であるだろう。また同じフランスでも、都市部と農村部、南部と北部とで、様々な食文化があるということがわたしには非常に興味深く思われた。今回のスタディーツアーを良いきっかけとして、それについてもっと学びを深めていきたい。