フィリピンSV

貧困問題に向き合うということ

向原 望
人間文化課程 1年

DAWNでの集合写真

今回のフィリピンSVでは、様々な問題に苦しむ移民のフィリピン人女性と、その日比国際児(JFC)を支援するDAWN*23、ストリートチルドレンを支援するカンルンガン*13、広大なゴミ投棄場があるパヤタスという地域で、そこに暮らす人々の援助をしているソルトパヤタス*17など、フィリピンで活動しているNGOを訪問した。これらのNGOが取り組んでいる問題として共通するのが”貧困”であった。フィリピンでは富裕層と貧困層の間に大きな格差があり、それがこの国の問題になっている。このことは移動中の車窓から見える風景が地域によって一変するといった経験などを通して、滞在中に身をもって感じた。

ただ、SVに行く前のミーティングにおいて徐々に現地での訪問先が決定してきた頃から、私の心にひっかかることが一つあった。それは、かつて、または今も苦しんでいる、辛い思いをしている人々に話を聞くことによって、彼らの心の傷をえぐることにならないか、訪問先も観光地ではなく、貧困などの問題に苦しんでいる人々が生活している場所であって、そこに部外者である私たちが足を踏み入れることで、彼らに嫌な思いをさせてしまわないかということである。しかし、訪問先で様々な話を聞かせてもらっているうちに、特にパヤタス*16で暮らす女性の自宅で話を聞かせてもらっていたとき、私たちのインタビューになんでも答えてくれる彼女の姿を見て、この考えは変わっていった。

今までの辛い経験の話を聞くことで、彼らの心の傷をえぐってしまうことは確かで、そうまでして彼らが私たちに現場の視察、そこに暮らす人々へのインタビューをさせてくれたことには、自分たちの今置かれている状況を知ってもらいたい、この経験によって私たちに何かを感じ取ってもらいたい、何か行動に移してもらいたいというような強い思いがあったのだろう。それと同時に、本当は様々な言い訳をして彼らが抱える問題、特にその根底にある貧困という問題から私は目を背けていたのではないかということにも気づかされた。

日本国内ではあまり感じないというよりも関わることを避けていたようにも思える、貧困、格差という問題は日本にも存在していて、実際私の通っていた高校の近くにも日雇い労働者が多く集まる地区があった。マニラ滞在中は、常に目に見える形で格差というものを感じ、そういった貧困・格差というものに真正面から向き合ういい機会になった。

注釈
  • *13 カンルンガン マニラにあるストリートチルドレンを支援するNGO団体。正式名称はカンルンガン・サ・エルマ。親から虐待を受けたり、ニグレクトを受けた子供たちが入っているが施設に入れない子供たちも多い。SVでは折り紙などを用いて子供達と交流した。
  • *16 パヤタス ケソン市北東部に位置する地区。マニラ首都圏のゴミが捨てられる廃棄物処分場が有り、毎日膨大な廃棄物が分別なしに集められ巨大なゴミ山が形成されるに至った。日々積み重ねられていく廃棄物によってゴミ山はどんどん巨大化し、2000年にはついにゴミ山の崩落事故が発生した。500軒のバラックが下敷きとなり公式に確認された犠牲者は234人、実際には800人とも言われる犠牲者を出した。事故を受けた政府は廃棄物処分場の閉鎖を決定したが、崩壊したゴミ山の近くに新たな廃棄物処理場を作り、パヤタスの第二のゴミ山として巨大化し続けている。フィリピンには廃棄物焼却場が存在しない。 ゴミ山の写真撮影は禁じられていた。
  • *17 ソルトパヤタス パヤタス地区を中心とする貧困地区の子どもと女性を中心に教育と収入向上の支援を行っているNPO団体。子供達への奨学金援助、学習支援、ライフスキル教育や母親へのゴミ拾いに代わる新たな収入源確保のためのクロスステッチ製品の制作、販売などを行っている。貧困問題に苦しむ人々の生活の向上と貧困問題の長期的解決をその使命にしている。

    http://www.saltpayatas.com/
  • *23 DAWN JFC(日本人男性とフィリピン人女性のあいだに生まれた子供、推定10〜20万人いるとされている)とその母親の支援を行っているNPO団体。出稼ぎのためにフィリピン人エンターティナーとして来日した女性が日本で出会った男性と子供をもうけたが、認知や国籍、アイデンティティなど国境をまたいだ複雑な問題が子供たちにまとわりつき、その解決のための支援を行っている。SVではDAWNの説明や織物体験、JFCの母親の体験談を聞いたり、子供達とランチを食べこの問題に対する考えを共有した。
    DAWN
    http://jfcmultisectoralnetworkingproject.org/index.php/ja/dawn