サンフランシスコで大きな煉瓦造りの建物が見る人を楽しませている風景が広がっている。建築家のダニエル・リベレスキ氏が電力発電所をリデザインしたその建物が Contemporary Jewish Museum(ユダヤ人近代博物館)*6である。その中の展示としてあったキブツ(kibbutz)は1909年ユダヤ人のシオニズム運動を受けて創立された農業主体のコミュニティーで『To Build and To Be Built』というスローガンのもとコミュニティーを形成しかつ構成員がコミュニティーによって再形成されなおすことが意識されている。私がこの展示を通じて自分が生で見てきたプロテスタントの教会であるグライドチャーチ*1に共通して感じられたのが、宗教性から地域性への移行とコミュニティー維持の目的化である。
キブツにおいてはユダヤ教徒の祖国への渇望によって生まれた宗教色の強いものであったが、拡大するコミュニティーにおいて次第に集団の中に意識のずれが生まれて地域に根差したつながりとなってしまった。プロテスタントの教会においても教団員の女性のスピーチの中で息子がドラッグ漬けになって家族が崩壊し、堕ちるところまで堕ちたものの教会に入ったことでいまでは幸せな生活が送れていると涙を流すシーンには本来あったはずの神の姿はなく、地域の人々が共感しあうことで慰めの場としているように目に映った。そして宗教性から地域性への移行は、本来まとまるべき大きな理念の喪失をもたらし同時にコミュニティー維持それ自体が重要な役割を担うようになった。
キブツにおいては金銭的な余裕のある人間はアフリカに初めてのソーラー発電の工場を建てる慈善事業を行うなどによってコミュニティーの中での自らの立場を築き、グライドチャーチにおいても特に何の変哲もないケーキをオークション形式で900ドルにまで釣り上げて寄付を楽しみながら行われていた。どちらもいわゆる「寄付以上の寄付」により地域コミュニティーの中での自らの居場所を確保するためにお金が使われていて、それが直接コミュニティーを維持することにつながっていた。
コミュニティーを構成する要素として宗教性と地域性は深くかかわりを持つものであるが、ここではあえてわけて考えると、宗教性から地域性への移行により、コミュニティーの維持自体が目的化されるという共通点を通じて、ある一つのビジョンや理念に沿ったコミュニティーを形成してみても、コミュニティーの拡大や世代交代などによって希薄化してしまい、意識の継続をするのが大変困難であることが理解された。