私たちは国際協力スタジオという、文化人類学・開発人類学者である藤掛洋子教授が開講しているスタジオに所属している。国際協力スタジオとは名前の通り、開発援助・国際協力・民際活動(NGO実践を含む)について、ジェンダー視点も踏まえ、専門的に学んでいるスタジオである。現在、学部36名、大学院生(博士前期・後期)5名の大所帯である。 「国際協力」の方法は無限にあり、模範解答などはきっとありはしないのだろうが、その片鱗に近づくべく、理論的なアプローチと実践的なアプローチの2つの面から「国際協力」について学んでいく、そんなスタジオだと私たちは考えている。今回のSVに参加したのは国際協力スタジオに所属している学生と藤掛洋子研究室に所属する大学院生を合わせた18名である。
私たちが所属する人間文化課程は2011年4月に発足し、国際協力スタジオが開講したのは藤掛洋子教授が本学に赴任した2012年4月である。 第1回目のスタジオの時、国際協力に興味を持つ学生たちが集まった。そして、大学生でもできる国際協力について意見を出し合った。藤掛教授が代表を務めるミタイ・ミタクニャイ(子ども)基金(以下、ミタイ基金)がパラグアイの農村部に学校を建設しているという話を聞いて、私たちもパラグアイに学校を建設したいという思いを共有するに至った。そして私たちはミタイ基金の学生部として国際協力スタジオに所属するメンバーで構成された「ロス・ニャンドゥティーズ」を組織した。ニャンドゥティは、パラグアイの先住民族の言語グアラニー語で「蜘蛛の巣」を意味する。また、ニャンドゥティはパラグアイの伝統的な刺繍の名称でもあり、パラグアイの多くの民芸品にこの刺繍が取り入れられている。私たちは、蜘蛛の巣のようにネットワークを広げ「つながり」を大事にしていこうという意味合いを含めて学生部の名称に「ロス・ニャンドゥティーズ」と冠したのである。
国際協力について学ぶ中で、そこにはクリアしなければならない課題が山積していることを私たちは学んでいった。まずは目標そのものに対してである。学校を建設したいのはなぜなのか?そこに教育が必要だからなのか?なぜ教育が必要なのか?漠然と立てた「学校建設」という目標に対し、私たちは授業を通し、PCM(Project Cycle Management)という手法を用い整理した。その結果、「学校建設」はいわば下位目標であって、私たちの上位目標は「学ぶ環境づくり」ということが明確になった。学校建設はゴールではなく、そのアウトプットを通じ、上位目標にたどり着くための、一つの手段である、ということに私たちはおぼろげながらも気付いたのである。
PCMのワークショップを通じて、「学校建設」という目標はより明確になったものの、学校という箱もの(=ハード面)を作っただけでは、十分ではないということも学んだ。学校を運営していくうえで必要な教師や教育環境や教育システムなど(=ソフト面)が整備されなければ上位目標へと結びつかない。そのためには現地でのニーズ調査・フィールドワークが不可欠である。そこで私たちはパラグアイに渡航する必要性を感じたのである。イベント等を通じて学校建設の資金集めを通じながら、国際協力や社会調査についての学びを深めること1年と半年をかけて、2013年の9月に念願のパラグアイ渡航が実現した。
2012年4月から始動したスタジオであるが、同年、藤掛洋子教授が本学に赴任した2012年9月にアスンシオン国立大学と横浜国立大学との学術交流協定が締結された。アスンシオン国立大学はパラグアイナンバー1の由緒正しい国立大学である。アスンシオン国立大学のPedro Gerardo González学長と駐日パラグアイ豊歳直之特命全権大使に横浜国立大学までお越しいただき、本学の鈴木邦雄学長との調印に至った。大学関係者、スタジオのメンバーで大歓迎をした。
調印式の後、学長による講演があり、アスンシオン国立大学が研究している学問やパラグアイという国の風土について私たちは講義を受けた。これから日パ両国の学生レベルでの交流がなされていくことは大変喜ばしいことであり、今回の渡航が最初の学生交流となる。私たちは渡航目的の1つとして「アスンシオン国立大学との交流」を立てた。
また、パラグアイについて学びを深める中で日系人の移住社会について関心が芽生えた。移住社会という特別なコミュニティについての分析は、先行研究はあるが、もっと調べたいという思いに至った。私たちにとって別の意味で未知の社会であるため是非その地を訪問し、お話を伺いたいという気持ちが強くあった。1ヶ月のパラグアイの長期滞在では渡航終盤で日本が恋しくなるだろうということもあり、移住地の方々のご好意で今回の渡航の日程に組み込んだ。 こうして立てられたパラグアイ渡航の3つの目的が、「パラグアイ農村部でのフィールドワークの実践」「アスンシオン国立大学の訪問・交流」「日系居住地区の訪問・交流・調査」である。以降のページで今回の渡航内容について紹介していく。
なお、このページから以降の参考文献・URLはすべて最終ページに掲載しているのでそちらを参照していただきたい。