東西文化を結ぶ交易路の拠点となり、中国最古の対外通商港として古くから栄えてきた広州には、中国各地だけでなく世界各国からビジネスマンが集まっている。また、中国最大のトレードフェアである中国輸出入商品交易会が毎年開催されていることから、人だけでなくモノも多く集まっていることが伺える。そのような広州には約5,700人もの日本人が移住しているのだが、これを上回る約2万人もの移住者がいるのがアフリカ人である。不法滞在者を含めると約20万〜30万人ものアフリカ人が広州で生活していると言われており、これは広州市民のおよそ2%に相当する。広州で商品を手に入れ、それをアフリカに戻って売ることで商売を成り立たせている人もいる一方、ビジネスに失敗したアフリカ人も存在し、不法滞在・就労をめぐるトラブルが発生している。2009年には不法滞在取り締まりのパスポート検査を逃れるために、アフリカ人が窓から飛び降り死亡したという事件起きた。これを機にアフリカ人が派出所を襲撃する騒ぎが起こるなど、広州の人々とアフリカ人の間に緊迫していた時期もあるのだ。こういった事例があるにもかかわらず、なぜこれほどのアフリカ人が広州に集まるのだろうか。そして、なぜ広州は人とモノを集める力を持っているのだろうか。現地の方へのインタビューをもとに彼らのコミュニティ像を考察し、現代の日本人コミュニティと比較していきたい。
広州にはアフリカ人コミュニティが複数存在する。わたしが訪れた三元里のアフリカ人コミュニティには、アパレル系の店や雑貨屋カフェなど多くの店が立ち並んでいた。街行く人々は中国人もいるものの、やはり黒人が目立っており、中国語以外の言語も街を飛び交っていた。そのような街のとあるナイジェリアレストランで、5人のナイジェリア人の方々からお話を伺った。
彼らはナイジェリアのイモ州出身で、同郷団体の幹部メンバーである。彼らの多くは広州で貿易業を営んでおり、ビジネスのために広州にやってきた。ナイジェリア人が中国に移住し始めたのは1990年代である。当時はビザなしで行けるという理由からはじめは香港に移住をし、そこで商品の買い付けをしていたと言う。しかし、買い付けていた商品のルーツを調べてみると、それは広州にあることが分かり、広州で直接買い付けたほうが仲介なく商品を仕入れることができ、安価で手に入るということから、広州にナイジェリア人が集まるようになった。2001年、2人のナイジェリア人牧師が広州に教会を作ると、そこは広州にいるナイジェリア人の情報交換の場になり、ナイジェリア人コミュニティの形成・拡大を見せた。
以上のことから、アフリカ人が広州に集まる最大の理由として、広州が物流の拠点であったことがうかがえる。しかしそれだけでなく、コミュニティ形成がしっかり確立されていたことも人が集まった理由だと考えられる。たとえ、ビジネスのためだとは言いつつも、単身で新たな地に移住することは非常に勇気のいることだろう。「中国人とは違う扱いを受け非常にストレスを感じていた」とナイジェリア人の方が語っていたように、異国ともなるとストレスのかかることは多いだろう。しかし、彼らは同郷団体を形成し、新しい人が来たら生活にあたっての情報やマナーなど中国社会に順応していくためのルールを教えている。また、1人1人が抱える問題を皆が知り、解決していっているそうだ。このように人々の横の繋がりがあるからこそ、暮らしやすい環境が作られ、だからこそ各々がビジネス展開しやすい環境を作ることに繋がっているのではないだろうか。
また、彼らが中国にいる理由としてもう一つ挙げたものは、ビジネスビザが取りやすいということだ。日本のビジネスビザは、去年からは取得しやすくなったとのことだったが、政府や大企業の支援がない限りビザの取得はほぼ不可能と言われるほど、一昨年までは取得が容易でなかったため海外からの企業進出は難しいものだった。しかし、中国はこういったビザが取りやすいことに加え、賃金が安いということから、ビジネスマンが集まるようになったのだ。広州に住む日本人の75%が製造業やその関連サービス業の管理職・技術職派遣者であることから、日本企業の中国進出がうかがえる。このように他国から人材を受け入れやすく、その結果自然とモノが集まるようになった環境であることから、広州含め中国へのアフリカ人大量移住に繋がっているのだろう。
アフリカ人コミュニティの形成とその現状の様子から、人々が生活するうえで人と人との繋がりは生活をするに当たって必要不可欠な要素の一つのように感じた。人との繋がりがあるからこそ多くの情報を得ることができ、多くの情報を得るからこそ自身の生活の質の向上に繋がっている。一方、現代の日本のコミュニティでは“人間関係の希薄化”が叫ばれている。近隣住民の顔や名前さえ知らないということも珍しくはない。情報もインターネットなどで得ることが出来るため、人とコミュニケーションを取らなくとも生活をしていけるのである。だが、これで生活の質は向上するものなのだろうか。生活する上でぶつかる問題は必ずしもインターネット上で解決出来るものだけではない。現地にしか分からない問題やその地域特有のルールなど、情報は机上だけでは収まりきらない。それを補強するためには、実際の人による情報が必要になる。今街ではどういうことが起きていて、そのためにどういう対策をしなければならないか、など身の回りで起こっていることは目まぐるしく変化するからこそ、周りにいる人からの情報や繋がりは重要だと考えられる。また、助け合うという意味でも人は重要であるだろう。個人の悩みを知り、それを皆で解決しようと努めているアフリカ人コミュニティこそ、我々日本人が希薄になりつつある人との繋がりを実践しているのではないだろうか。自分の身近にあるコミュニティを今一度見直していきたい。