シンガポールSV(1)

HDBギャラリー訪問

吉井萌里
人間文化課程 3年

19日の午前中、私たちはシンガポール特有の居住システムを学ぶために、シティギャラリー、そしてHDBの見学に赴いた。シンガポールの居住システムは日本と大きく異なる。

シンガポールSV(1) 2016:◆◆◆

シンガポールに渡航する前は、後ほど紹介する“HDB”という単語さえ聞いたことがなく、日本ではそれぞれが自分で好きな家、アパート、居住空間を選んでそれぞれ持っているのが普通であると思っていたし、それが国によってほとんど管理されている、というのだからとても驚いた。HDBとは、シンガポール特有の居住空間で、Housing Development Boardの略、現在では約八割の国民が居住しているという。さらに、驚くべきことは、国民の持ち家率は90%を超えているようだ。HDBの購入は国民のみで、外国人の購入は不可であるが、借りることはできるようになっている。では、外国人はどこに住んでいるのか、と言われると、HDBとはまた異なるのであるが、“コンドミニアム”と呼ばれる高級マンションが多い。旅の1日目、友人3人と滞在するホテルを探していたものの、丘の上にあり、行き方がわからずに困っていたところ、助けてくれた女性の方が、ホテルの横のコンドミニアムに住んでいる方であった。コンドミニアムに住んでいるから、ということではないだろうが、やはり裕福な家庭なのだろうか、外見からして“裕福なシンガポール”のイメージが漂っており、「ああ、シンガポールに来たのだ」と実感した一瞬の一つでもあった。丘からコンドミニアムの中も見えたのだが、ガラス張りの部屋に、大きなベランダ、中央には大きな共有プール、地下には駐車場も備え付けられ、日本で見かける高級なホテルとほとんど変わらないような気がした。

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街を歩いていて、シンガポールの居住環境に関して思ったことは、やはり高層の居住空間が多い。さらに、緑や歩道がきちんと整備されており、とても街に清潔感があった。高層の住居が多いのは、やはり、シンガポールは東京都23区とほとんど変わらない面積とはいえ、人口密度が高く、国民が住むスペースを確保するためには、高層にする必要があるのだろう。また、緑については、それぞれの木に番号がつけられていて、徹底的に管理されている、という話もきいた。国の発展のために、貢献する国民、その国民に対して国が無駄な部分なく、環境づくりを通じて還元しているように思われた。HDBのギャラリーにも、HDBが目指すものとして、“シンガポールの持続可能な開発とは、社会の調和を促進することであり、経済開発、さらに、現在の、かつ未来の我々にとって良い居住環境を作ることである”としている。シンガポールは1950年代には深刻な居住問題を抱えていた。しかし、HDBが発足した1960年からは、驚くべきスピードで低価格、高層住宅の建設が進められ、現在までの約60年の間に、居住問題を解決に導いてきた。また、面白いことに、現地の人の話によると、シンガポールはご存知の通り、中国系、インド系、マレー系、といった多くの人種の人々が共同して住んでいるのであるが、HDBの建物や部屋によってそのような人種の塊ができないように、わざと隣は違う人種の人、というように管理されているのだそう。実際、チャイナタウン、リトルインディアあたりでは単一の民族の人を中心にしてお店などが展開されていたが、観光は観光、居住は居住として、共生のために必要な措置としてHDBにおいても居住者が管理されていることは興味深く、効果的だと感じた。

シンガポールSV(1) 2016:◆◆◆

少子高齢社会に悩む日本においても、”公営住宅“というものは、何か解決に導いてくれるものがあるのではないか、と思った。HDBなどの近くにはシンガポールのあちこちでみられ、安くご飯が食べられる”ホーカーズ“がみられ、そうした空間も、シンガポールの人々にとっては憩いの場であり、交流の場にもなっているのだろう。憩いの場と公営住宅の共存。総じてシンガポールの居住環境は国民のことを第一に考えられたものであり、それが国の発展にもつながっていく、効率的なシステムだと思った。